第46話 校外学習XVIII

 田辺くんへ


 同じクラスの田口です。

 これを読んでいるということは、私を待っていてくれたのは田辺くんだったということですね。

 本当だったら、直接会ってお話したかったのですが、体調を崩してしまい、それが叶わなくなってしまったので、手紙という形でお伝えします。


 実は、田辺くんのことは、入学式の日から知っていました。

 その日、私はハンカチを学校のどこかに落としてしまい、歩いてきた廊下や階段を探していました。どれだけ念入りに探しても見つからないので、もうあきらめてしまおうかと思ったところへ――田辺くん、あなたがハンカチを持ってきてくれました。

「これ、あそこの廊下に落ちてたんだけど、もしかして、君が探してるのって、これ?」

 そのハンカチは、誕生日プレゼントに母から貰ったもので、とても大切にしていたハンカチだったので、田辺くんには今でも感謝の気持ちでいっぱいです。

 そのときに上手くお礼が言えたらよかったのですが、私がもじもじしていたせいで、田辺くんは、じゃあ、気を付けて、と言って去ってしまいました。田辺くんは覚えていないかもしれませんが。


 改めて、あのときはありがとうございました。


 今回の待ち合わせの相手が田辺くんかもしれないと感じたのは、校外学習で田辺くんと一緒になる機会が多かったからです。待ち合わせも田辺くんなのではないか――言葉ではうまく言えないのですが、不思議とそんな感じがしていました。


 すみません、私が一方的に伝えたかったことを言ってしまいましたね。

 また、改めて直接お礼を言いたいと思っているので、そのときに、田辺くんのお話も聞かせてください。


 学校でお会いできるのを楽しみにしています。


田口紗江

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る