夢見るエンジン

作者 馳月基矢

69

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★★★ Excellent!!!

才能があって、やりたいことがあって、それを生涯の職にできたら。
幼い頃、私も漠然とそんなふうに思っていました。諦めずに頑張ればそれはきっと叶うと、夢見がちに信じていました。
でも、現実はそうではない。
自分よりも才能に恵まれた人がいる。輝くような未来へ繋がる門は狭く、道は険しい。
眩しいものから目を背けたら、どこへ続くかも分からない——どこへ続いてたって然程気にもならない、平凡で慌ただしい日常の中に、いつの間にか取り込まれていた。

この物語の主人公である真新も、そうした「平凡な人」の一人です。
ただ生活のために、生きていくためだけに、身を粉にして働く。労働環境は最悪の極黒だけど、これまでの自分のしがないキャリアや共に働く仲間のことを考えると、どうにもそこから抜け出せない。
彼の状況に共感する人は多いのではないでしょうか。

そんな真新に訪れる、不思議な転機。
夢か幻か、戦時中の日本へタイムスリップし、飛行機技師であった若かりし祖父に出会うのです。
素晴らしい才能に溢れた祖父でしたが、やりたいことをしようにも、時代や彼の置かれた状況がそれを許しません。
そんな、言わば自分とは対照的な祖父と話をするうちに、真新の中に新たな風が吹き始めます。

空の高いところを軽やかに飛べたら素晴らしい。
でも、皆がそんなことをできるわけじゃない。むしろ大多数の人が、一握りの輝く人たちを地上から眩しく見上げている。

だけど、地上にだって、進むべき道はある。
例え平凡でも、矜持を持って歩んでいけるのであれば、誰と比べるでもなく、素晴らしい誇りになり得るのではないでしょうか。
そんなことを考えさせられる、非常に読み応えのある物語でした。

★★★ Excellent!!!

「今をかえるのは自分自身」
 誰もがきっと、一度は聞いたことのある言葉だとおもいますが、その言葉を実践しないまま、ただ不平をこぼすだけで怠惰に身をまかせてしまいがちです。この作品は、無為に日々を過ごしていた真新さんが遭遇するひとつの邂逅を通じて、その言葉の意味を語りかけていると感じました。

 忙しい日々は、人の視界をどんどん狭めていく。器用に世の中を渡っていたはずの真新さんが、ぬかるみに嵌ったまま、でてこられなかったように。
 人と自分をくらべてしまえば、どんどん惨めになっていく。立派だった祖父の久文さんと彼の才能を引きついだ華さんを横目に、嘯くしかできなかった真新さんのように。

 簡単に奪われてしまうものを自分の手に取り戻すには、必死にあがくしかない。久文さんは高い空を飛ぶ飛行機を見上げて、華さんは久文さんを見上げて、懸命に手を伸ばしていました。
 ひとつの出会いと、大きな事件を体験して成長した真新さんが、偉大すぎる祖父の夢をこえていこうとする華さんをまえに、あがいてみる、と念じたとき、その胸にもきっと、ふたりと同じ、遥かに高い空を飛ぶ美しいものへの憧れが宿っていたのだと思います。
 自分で選んだものには、かけがえのない価値がある。それがたとえ、大きなことではないとしても。
 そんなことを教えてくれる素敵な物語でした。

★★★ Excellent!!!

 残念ながらまだ読み終えていません。この作品について何かを語る資格があるかどうか、迷いつつ書いています。もちろん、長い作品の行く末に期待を込めて、応援の意味も込めて途中で評価を与えるというスタンスがあるのは承知しています。ですが、完結している作品にそれは……と思うことしきりなものですから。
 しかし、作家にとっての評価というものは、かならずしも完成品に対してしか行われるべきものでもありません。創作意図、そして才能のきらめきというものは、作品のどこにもメロディの流れのように偏在しているからです。
 私はこの作品を読みながら、たしかな踏みごたえのあるステップを一段一段昇っている感覚を味わっています。つぎの階に達するごとに、「ああ、ここがそうか」と新たに広がる光景に眼を奪われています。
 できれば昇りきってしまいたい……と。
 残酷なコンテストの終了の時刻が迫っています。具体的なことを少しも述べられないままですが、いったんここで大きな期待値としてのレビューを閉じさせていただきます。
 もちろん、余裕ができ次第、かならず最後まで読み終えてあらためてコメントさせていただくことにしますから。
 

★★★ Excellent!!!

二つの意味で歴史を扱った小説。一つには、これが第二次大戦に材をとった物語であるという意味で。そしてもう一つ、多くの人が「現在」として読み飛ばすであろう2011年、東日本大震災が非常に大きな意味を持つ鍵となっている、という意味で。


科学とは何か、技術とは何か、それは人間の日々の生活の営みとどのようにつながっているのか。そういった疑問が、「いつの時代にもある理不尽」を背景に結びつけられ、描かれていく。
歴史を作り上げていくのは常に、それぞれに夢もあれば一身上の都合もある人々である、という事実に、停滞している主人公が気づくとき、何か止まっていた歯車が動き出すような、静かな「動き」が作品の中に鼓動のように聴こえてくる。

★★★ Excellent!!!

文章全体がとても丁寧に書かれた印象を受けました。
郷愁を感じさせる第一章の出だしから、描写される世界に引き込まれ、ラストまで一気に読んでしまいました。

「仕事」というテーマに対して、本作が書かれた事実にまず意義があるのだと思います。
本作は「『ある特定の仕事』についての小説」ではなく、「『仕事というもの』についての小説」です。
働く人たちが何人も登場しますが、特定の職業だけにスポットをあてたストーリーではありません。

問われているのは、「仕事とは何か」ということ。
それを突き詰めた結果が、きっと「誇り」という言葉に集約されているのだと感じました。

余談ですが、途中の章につけられた「ナイフ」というタイトルが印象深いです。
PROVE YOURSELF。まさしく本作に相応しいフレーズが、懐かしいメロディと一緒に頭の中に蘇りました。

よい作品だったと思います。

★★★ Excellent!!!

仕事を決めるのは人生を決めることですが、決めてからも様々な葛藤があるもので、特に自分と全く違う立場の人と出会うとその気持ちは大きくなりがちかと思います。
非熟練労働者、熟練労働者、研究者といった業界的には全く重なり合わない人たちが血縁を通じてお互いの立場を知り、様々なことを考えるところは作者さんの思いが入っていて良かったです。

疲れきるまで涙を流す日があっても人生は続いていく。そんなことが自分にもあったなあと思い出しました。

★★★ Excellent!!!

読み始めは 悩める主人公を亡き祖父があの世から支える物語かと想像していたが さにあらず。なんとなく進学・就職し使われ続ける生活に陥ってしまった所から この作品のエンジンは廻り始める。

ブラック企業で疲弊する彼の目に、苦しい時代でも飛行機に惹かれ技術を研く若き祖父の姿が眩しく映るというのは、挫折を知る方なら理解できるのではないだろうか。そして 夢に真っ直ぐ生きているように見える人にも 悩みがあることも。
戦争、東日本大震災、原発事故。その後の苦境から 前に向かおうとする人から発せられる お国言葉の逞しさがなんとも頼もしく聴こえてきた。

長編ではあるが、すっきりとした文章で登場人物それぞれが丁寧に描かれ 一気読み。 支え支えられて生きる事に素直に頷けるような後味のよい読後感に満足。


☆長崎弁には馴染みがあるので、時に声に出しながらイントネーションも味わいながら読ませていただきました。楽しい時間 ありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

真新:私もちょっといろいろ失敗したり、比較対象が近くにいたりして、ひがんだりどうせだめだろ。って思ったりしてしまうタイプなので、すごいわかる。自分がどんどんだめに見えて。辛くて心の奥底のずるずるとした”何か”が持ち上がってきて、無意識なのに意識的とも言えるタイミングで人を傷つけてしまったりする。

と同時に、心をぱったりと閉ざして、考えずに何もしない。このギリギリのもろさが、少しの揺らぎにすぐ反応してしまって困る。感情、ちゃんと持っておかないといけないのになぁと思いつつ。楽なんだよね。何も思わないのは。

最後、ちゃんと前向けてよかった。

華:しっかり者、エリート、東大。そんなレッテルを貼られる。私はもちろん(そして残念ながら)東大ではないけれど、人と違う道を進んだ人としては、レッテルも貼られるし、すごいねとも言われる。だけど、私なしにそのレッテルを見て判断されちゃうと、私がどういう人物であるか、とか。全然みんな見てくれない。確かにその一時だけ会う人の第一印象が外見と学歴とか基礎知識で構成されることは否めないけど、もっと学校じゃなくて、どういうことしていたのか、と聞いて欲しいよなぁとおもう気持ちはとても共感できる。

私は違う。ちゃんと自分で居たいからこの道を選んだんだ。そうやって他人の前できちんと言い切れる華はすごいかっこいい。私にはできないなぁ。いつか、おじいちゃんのように、素敵な機械を作る人になれるといいですね。



氷月さん! またまたレビューにならずにすみません!!!

★★★ Excellent!!!

 労働。働くこと。それが人生において、力強く前を向くための「誇り」なのだと教えてくれる物語だ。運送トラックの運ちゃんしかり、工場の工員しかり、ポスドクの研究者しかり、ブラック牛丼屋の店員しかり。

 ただ生きる。そういう仕事もある。だが、そこに何かを「上乗せ」することは、きっと誰にも出来る。そこに誇りを見出して生きることは出来るのだ、一人ひとり、違う誇りを。
 そういう生き方がある。そんなことを、本作は示している。

 特定の職業に留まらない、作者の視野の広さ、視線の透徹ぶりは、働く誰ものための応援歌となる一作を書き上げた。



 まさしく作者の「働きぶり」を、どうか多くの人に見届けていただきたいと願う次第だ。



 良い小説に出会った時、必ず思い返す一節がある。それは作家・北村薫の言葉だ。

『小説が書かれ、読まれるのは、人生が一度しかないことへの抗議だと思う』

 小説によって、私たち読者は、別の誰かの人生に触れることが出来る。

 誰かを応援する誇りを教えてもらえる。

 誰かの不幸に涙する優しさを教えてもらえる。

 誰かの境遇への遣り場なき怒りを教えてもらえる。

 誰かの愛への共感を教えてもらえる。


 良い小説と出会った時、私たちの人生は、少し豊かになる。
 私はそう信じている。
 だから私は、この作品に、感謝したいと思う。

 おかげで、また少し私の人生が、豊かになりました。

 ありがとう。


 どうもありがとう。

★★★ Excellent!!!

東日本大震災のあった年の長崎、そして東京が舞台になっているがベースには福島という地がキーワードとして流れている。これが大変重要なのだと思う。闊達な才気あふれる女性と穏やかで自分を押さえてしまう青年が登場し、彼らの毅然とした祖父についての思い出が語られる第一景。青年はこのまま穏やかに平凡に過ごしていくのかと思うが現実は甘くない。
戦時中の空襲で数多くの人たちが犠牲になった立川の地で、「しかたがない」と流されることでむしろ安心するような生き方をしている。だが彼には仲間がいる。サラリーマン時代の痛々しさとの対比が鮮やかだ。
理不尽な思いをしても言いたいことは言う牛丼屋のカズが逞しい。
その逞しさは同じ福島にルーツを持つ主人公の祖父の凛々しさにも通じる。
多く語るのは野暮というものだが、二つの「あの日」を知る主人公は、夢を見る事はなくとも夢を応援する人間に成長した。
それを読者は一緒に体験するだろう。快作。

★★★ Excellent!!!

立川に住む真新(まさら)は、ブラック牛丼屋での日々を乗り切るのに精いっぱい。
祖父は戦時中、立川で飛行機を作っていたのだという。

牛丼屋の労働環境の過酷さと、疲労でいろんなものが麻痺している感じが凄いです。
ともに働く仲間には恵まれているんですが、人手が少なすぎ。
それに、社員である地区マネージャーがガン……。

同い年のいとこ・華は大学院の博士課程の学生で。
祖父の影響を受けて自分の道を選び、着実に進んでいる。
新卒就職した会社を辞め、今はフリーターの真新としては、引け目も感じる。
(『バゲット慕情』を読んだので、華の04年と11年の髪の長さの記述に「ああ……」と思いました。)

孫は年老いた祖父の姿は見慣れていても、学歴や職歴など、祖父がどう生きてきたか把握していない。
戦時中に十代を過ごした祖父は、学びたくとも思うように学べる状況になかった。
祖父の人生のピースが開示されるタイミングが絶妙です。
対話の中で指摘されて、真新が自分の誇りを自覚する場面は、目が潤む気分。


私も祖父の生前に、もっといろいろな話を聞いておけばよかった……。
自分のルーツを調べたくなりました。

★★★ Excellent!!!

まずは、私事からお話しすることをお許しくだされたく。

というのも、この作品を読むきっかけとなったのは、
「立川飛行機」というタグに眼が吸い寄せられたからであり、
この作品の主人公と祖父が立川に立っていたように、
私とその祖父もまた、半世紀の時を経て
同じこの街に立っていたのである。

実は、
私の母方の祖父が戦中に徴用された際、
その働き先がまさにこの立川の飛行場であった。
仕事の内容は「飛行機の後押し」
つまり、飛び立つ飛行機を後押しする役目で、
毎日上野から立川まで省線で通っていたという。

そして、孫である私もまた、
仕事の関係で10年近く立川に通い続けた。
(今でも、立川方面には年に10数回は仕事で赴く)
モノレールで南下して「立飛」の駅を通過するときは
この世で会えなかった祖父のことを思い、
南口方面から帰るときは、
少しドキドキしながら近道である歓楽街を通って行った。
勤務前に、すでに疲れた状態で駅の改札をくぐったこと。
駅ビルで服を見立ててもらいながら、
店員さんと交わしたおしゃべり。
駅構内で貨物列車が動くときの「ゴットン」という
重い音に飛び上がったときのこと。
ヒリヒリとする筆致で綴られた、
この一人の若者の物語には、
私が若かりし頃に過ごした立川の街が
リアルさをもってそこに蘇っていた。
(リアルといえば、ブラック牛丼屋での
労働の描写が真に迫っている!)

いっぽう、長崎は一度修学旅行で訪れたきりだが、
十代の私に強い印象を残している土地である。
長崎の方言も心地良く描写された
精霊流しが柔らかさと郷愁に富むだけに、
立川での、主人公の生活に倦み疲れた様子と
コントラストをなしていて、痛い。

これから作品の主人公と祖父の人生が
どう交錯していくのか、
私は自身のファミリーヒストリーと
重ねながら、読んでいくことになるだろう。
次の更新が楽しみで… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

主人公の真新くんが自分を見つめ直していく物語です。

今を生きる真新くんは就職まではトントン拍子で進みますが
会社で初めての挫折を知ります。

挫折から立ち直ろうとする彼はブラックなアルバイトで生計を立て
必死に生きますが、恋人ともすれ違い完全に自分を見失うこととなります。

ここまではよくあるストーリー展開で、現代の若者がリアルに表現されています。
一度道を逸れるとなかなか戻れない、そんな悲哀に涙します。

そして失意の主人公が夢か幻か出会うのが、青年時代の彼の祖父。
祖父は戦争で飛行機を作らされ、強制的に自分で作った飛行機を特攻機に改造させられていました。
今は自分のしたいことがさせてもらえない、でもいつかは自分でエンジンを作りたい! 
そう話す若かりし祖父と出逢ったことで、真新くんはどう変わっていくのでしょうか?

更新を楽しみにしております。