『読むと死んじゃう本』の感想

 私は、『読むと死んじゃう本』という名の本を読んだ。

 じゃあなんで感想を書くことができるんだ……と思われた方も多いだろう。


 私もバカじゃないし、そう簡単に死にたくもない。

 タイトルの真偽について半信半疑だったものの、万が一に備えてちゃんと対策を講じていたのだ。


 それは、『読むと死んじゃう本』を読む前に、『読むと死んじゃう本を読む前にやるべき10のこと』という本を読んでおく、というもの。

 その本の冒頭で『読むと死んじゃう本を読むと本当に死にます。なので、どうしても読みたいという方は、この本に書かれている10のことを必ず実行しましょう』と書かれていた。

 ……いや、シンプルに怖い。

 本当に死にます、とかヤバすぎる……と手元を震わせつつ、死にたく無いのでたっぷりと時間をかけて対策本を熟読した。


 そこまでしてなんでそんな危険な本を読もうとするのか……と思われた方も多いだろう。

 そもそもの始まりは、『読むと死んじゃう本を読んで生還した男』という本を読んだ事。

 その男曰く、読むと死んじゃう本は読むと本当に死んじゃうのだが、もし読んでも死ななかった場合とんでもない恩恵があると言う。

 どんな恩恵があるかを他言すると死んじゃうと書かれていたので明言するのは控えるが、とにかくもの凄い恩恵だった。


 かくして、私は燻り続ける現状を打破すべく、読むと死んじゃう本の対策本を読んだ上でやるべき10のことを実践し、『読むと死んじゃう本』を読んでみた。

 その内容は……おっと、危ない。

 それを書いてしまったら、この文章を読んでる人も死んじゃうかもしれないので詳細に関しては割愛させて頂く。

 とにかく実際に読んでみたのだが……最後のページ(奥付)を見た瞬間、私は愕然とした。

 なんと、自分が読んでいた『読むと死んじゃう本』は第49版だったのだ!


 メチャクチャ人気じゃないか……という事では無く、私が予め読んでいた『読むと死んじゃう本を読む前にやるべき10のこと』は第48版、つまり『読むと死んじゃう本』の第48版まで対応しているバージョンであり、それ以降に内容が変更されたものに対しては保障の対象外となりますのでご注意下さい、と書かれていたのだ。


 終わった……。

 完全に終わった……。

 自分は死ぬんだ……読むと死んじゃう本を読んで本当に死んじゃうんだ……。

 途方に暮れながら、私は半ば無意識で本屋さんに足を運んでいた。

 小さな頃から本が好きで、常に本と寄り添い合うように生きてきた人生。

 どうせ死ぬなら、本に囲まれて一生を終えたい……と覚悟を決めたその時。

 私の目に飛び込んできた本のタイトル。


『読むと死んじゃう本を読んじゃったけど死にたく無い人のための本』


 ……こ、これだ!

 すぐにその本を手に取ってレジへと持っていく……が、しかし。

 その途中でとんでもない本を見つけてしまった。


『読むと死んじゃう本を読んじゃったけど死にたく無い人のための本はでたらめだ』


 ……う、嘘だろ!?

 それじゃ、私はどうすれば良いんだ……途方に暮れかけたその時。

 目に飛び込んできた一冊の本。


『読むと死んじゃう本を読んじゃったけど死にたく無い人のための本はでたらめだの本を信じてはいけない。あなたは大丈夫だ』


 ……助かった!

 読むと死んじゃう本を読んじゃったけど死にたく無い人のための本は本物だったんだ!

 まだ生きられる!

 私はまだまだ生きられるんだ!!

 暗い闇の隙間からまばゆい希望の光が射し込んだ……そのさらに隙間から見えた本。


『読むと死んじゃう本を読んじゃったけど死にたく無い人のための本はでたらめだの本を信じてはいけない。あなたは大丈夫だの本を読むだけでは大丈夫じゃない。そこには書かれていない真の対処法がここにある!』


 ……危なかった!

 あれだけじゃ大丈夫じゃなかったのか。

 ギリギリセーフ。

 私はツイてる。

 これで、本当に死ななくて済むぞ……と、ホッとしかけた途端に見つけた一冊の本。


『読むと死んじゃう本を読んじゃったけど死にたく無い人のための本はでたらめだの本を信じてはいけない。あなたは大丈夫だの本を読むだけでは大丈夫じゃない。そこには書かれていない真の対処法がここにある!だけで満足してるあなたへ贈る最後にして最大の対処法を惜しみなく書き記し、なおかつ宝くじの必勝法まで特別に教えちゃう〈読む死ぬ関連書籍〉の最終形!』


 ……よ、良かった!

 ついに真の対処法が見つかった!

 しかも、宝くじの必勝法まで特別に教えてくれるとかどんだけ親切なんだよ。

 私は両手一杯の読む死ぬ関連本を購入し、両腕がもげそうになりながら自宅に戻った。

 

 そして今、真の対処法を実践している。

 ……そう。

 それは、『読むと死んじゃう本』の感想文を書くこと。

 とにもかくにも、私はまだちゃんと生きている。

 いちいち高額な〈読む死ぬ関連書籍〉を大量に購入したことで正直財布は軽くなってしまったが、気持ちは明るい。

 なぜなら、まだ生きてるから。

 そして、これから訪れるはずの“大きな恩恵”を想像するだけで顔がニヤけてくる。


 そうそう。

 ニヤけると言えば、両手一杯に本を抱えてレジへと向かう私の姿を見て、本屋の店主が満面の笑みを浮かべていた光景が脳裏にこびりついて離れない。

 

 

〈了〉

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