サツマイモラグビーW杯
「さぁ、ついにやって参りました、サツマイモラグビーW杯決勝! 好天に恵まれ、スタンドを埋め尽くしたサポーターの皆さんは、間も無く吹かれるホイッスルを今や遅しと待っていることでしょう。そして、本日の解説はおなじみ夏木さんです。よろしくお願いします!
「はーい、どうもよろしくぅ! いやぁ、どのスポーツでも決勝ってのはやっぱり興奮するねぇ! もう、興奮しすぎてパジャマのままで来ちゃったよ、がっはっは」
「……ち、ちなみに、夏木さんの専門はもちろんキャベツサッカーだと思いますが、サツマイモラグビーもお詳しいんですか?」
「そうだね! どっちも広いグラウンドで野菜を使ってワーワーやるっていう共通点あるし、似たようなもんじゃない? っていうか、ほとんど同じでしょ!」
「な、なるほど……あっ、ちなみに決勝のカードは何と日本対ニュージーランド。我らが日本が、大方の予想を覆す快進撃でついにここまで来ましたよ夏木さん!」
「そうだね! ここまで来たらもう日本の優勝で良いでしょ! がはははは!」
「…………」
「うん」
「……おっ、夏木さん、そうこうしてる間にいよいよ選手入場です!」
「おお、出てきた出てきた。いやぁ、みんないい顔してるねぇ! サツマってるね~」
「ですね。選手たちはみな、手に軍手を付けています。夏木さん、これは一体どういうことだか分かりますか?」
「ハッハッハ、もちろんだよ。それは、ヤバいことしたときに指紋を残さないよう──」
「はい、まず試合で使うためのサツマイモを掘るためですよね」
「そうそうそう! サツマイモが無けりゃ、試合になんないもんね! がはははは!」
「あっ、夏木さん! 選手がグラウンドの端っこにあるサツマイモ畑に移動していきますよ!」
「してるね~。走ってるね~! 見てよほら! 選手たちの嬉しそうな顔! そりゃ、楽しみだよねぇ~。イモ掘りよりも楽しいことなんてこの世にあるのかっていう! もう、ボクも行ってこような、なんつって!」
「どうぞどうぞ。ここは私にお任せください」
「……うん。居させてよ」
「おおっと! 両チームの選手が一斉に掘り始めましたぁぁぁ!! 凄い凄い凄い! 勢いは……日本代表が圧倒しています! なんてったって、イモホリングを制する者がサツマイモラグビーを制すると言われていますからね! 夏木さん、なぜだか分かりますか!」
「それは……沢山食べられるから? そうだそうだ! 試合が始まる前にサツマイモを沢山食べる事でそれがエネルギーとなり、走ったりタックルしたりする時に大きな違いが──」
「はい。試合開始前に全員でイモホリングをして、その中で一番形が良くて大きなイモが試合球として使われるんです。そして、試合球を掘り当てた選手の居るチームには何と、トライ5回分に相当する25点をゲットできちゃうんです!」
「あっ、そうそう。そんな感じ、そんな感じ。がんばれ~、がんばれ~」
「うわっ、マズい! ニュージーランド代表のイモ掘り要員と言われる選手がもの凄く大きなイモを掘り当てたぞぉぉぉぉ!! ピンチ! 日本ピンチ!! このままだと、試合開始時点で25点のビハインドを……うぉぉぉぉぉ!」
「ど、どうしたの? ねえ、一体どうしたの??」
「夏木さん、見て下さい! 日本代表のフォワード選手8人がホリスクラムを組み始めましたよ!」
「おお、凄い!! ……って、どいうこと??」
「つまり、それだけ手応えのあるイモを見つけたということです! ホリスクラムを組んだにも関わらず、引き抜いたイモが凡庸なサイズだった場合にはディスアポイントメントファールとなり、相手チームに10点与える上、ファールを犯したチームの選手は自動的に2人退場となり、さらに試合後に振る舞われるスイートポテトアフターゲームのサイズもMサイズからSサイズに格下げとなってしまいますからね! それだけ、自信があるということです!」
「なるほど! それは楽しみだ!」
「夏木さん、なにがですか?」
「スイートポテト……じゃなくて、日本代表のホリスクラムってやつだよ! 頑張れ頑張れ!」
「そうです。テレビの前の皆さんも、ぜひ日本代表にエールを送ってください! 頑張れニッポン! イーモ、ニッポン! イーモ、ニッポン!」
「おっ、なにそれ良いね! イーモ、ニッポン! イーモ、ニッポン!」
「イーモ、ニッポン! ……あっ、出ます! ついに、日本代表の命運がかかったサツマイモが姿を現しそうです」
「うわぁ、興奮するねぇ! 出るよ出るねぇ出ちゃうねぇ!! おっ、あ、あれは……大きいんじゃない!? ちょ、ちょっとちょっと!!」
「はい! 夏木さん、凄いです凄いです! 私、長年サツマイモラグビーの実況に携わってきましたが、あそこまで大きなサツマイモを見たのは初めてです!」
「そうなの? そりゃ、凄い! ねえ、美味しいかな? あれ、美味しいかな? ほら、大きすぎると大味になるとかって良く言うじゃ無い? どうなの? あれ、美味しいの?」
「知りません。今一番重要なのは、掘り当てたイモが試合球に使われるかどうかですので」
「うん、ごめんだよ」
「おっと! 審判団による計測が始まりました……が、即決! ニュージーランド代表が掘り当てたサツマイモも通常であれば選ばれてもおかしく無いほど大きいのですが、日本代表のイモをご覧下さい! あの、禍々しいほどの巨大さを!! あえて言います、ちょっと気持ち悪いぐらい大きいです! 圧勝で、日本代表の掘り当てたイモが試合球に選ばれました!」
「やったね! ほら見てよ、日本代表の面々! 良い笑顔してるよハッハー!」
「はい! 中には、目を潤ませている選手もいるようです。なんて言ったって、試合開始時点で25点のアドバンテージですからね!」
「そりゃ凄い! もう、勝ったも同然だ!」
「いいえ、夏木さん。相手は優勝候補、強豪中の強豪であるニュージーランド代表。油断は禁物です」
「あっ、うん。そうだね」
「さあ、両チームの選手が軍手を外しました! あとはホイッスルを待つばかり!」
「だね! 頑張れ日本! いや、イーモニッポン!」
「はい! イーモニッポン! イーモニッポン! 激しく苦しい戦いになると思いますが、あれだけ立派なイモを掘り当てた自信を胸に、精一杯チャレンジして欲しいですね!」
「うんうん! とにかくイーモニッポンだよ!」
「そうです。日本全国の皆さん、サツマイモラグビーに詳しい人もそうでもな人も、巨大な敵に立ち向かう日本代表にぜひエールを! イーモニッポン! イーモニッポン!」
〈了〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます