"海"の悩み相談室
「はい、こちら"海"の悩み相談室です」
「ど、どうも……」
「はい。今日はどういったお悩みで?」
「は、はい、えっと、あの、その……」
「大丈夫ですよ。緊張しないで、リラァ~ックスリラァ~ックス」
「あ、どうも……。えっと、僕はとある場所にある"海"なんですけどちょっと色々悩みがありまして──」
「ああ、その内の1つは濁りの件ですね」
「えっ、あっ、そうなんですけど……食い気味な……そうなんですけど……」
「フフフ、大丈夫。当相談室へ悩みを相談される海の方々の9割が濁りについて悩まれておりますので」
「は、はぁ……じゃあ聞いて下さい。僕って他の海さんたちに比べて特に酷く濁ってるんです。それはもう、30センチ先に何があるか全く見えないぐらいで」
「あら、それは重傷ね。アナタなんかしたんじゃない? そんなに濁されるなんて」
「えっ、いや全然そんなの心当たりないですよ! なるべく危険の無いように波を立てないように気を付けてますし……」
「それっ! 原因それよ! 海はなるべく動くことで海水がかくはんされて綺麗になっていくものなの。なるべく動かないとかもう怠慢よ怠慢!」
「えっ、あっ、何かごめんなさい……。で、あと他にも色々悩みがあって、人が全然遊びに来ないとか……」
「濁ってるからよ。汚れた海で遊ぼうなんて人が居るわけ無いじゃない!」
「ひぃ! ……そ、そうですよね。でも、やっぱ何か頑張ろうにも、人が来てくれないとやる気が出ないっていうか……」
「わがまま言うんじゃないよ! とにかく動いて波を立てなさい。そうすればサーファーが来るから。そうしたらついでに可愛いギャルも来るようになるから。そうなると自然に海の家とかお店が建って賑やかになってくるから。そこまで来たらしめたもの。何か楽しそうな海って噂が立って、若者が集まってきて、情報誌なんかが取り上げるようになって家族連れも来てもうごった返しよごった返し。でも、その間も油断しちゃだめよ。とにかく重要なのはインスタ映えよ。変な形の岩とか太陽が重なると何かに見える岩とかそういうの用意しなさい。するとバスツアー客とかも来るようになるから。運良く花火大会とか開催されるようになったらもうヤバいわよ。お金の流れがもうそれこそビッグウェーブの如しで……って、やだごめんなさい。まぁ、とにかく動くこと。人間と一緒ね」
「あっ、はい! ありがとうございました! なんかやる気が出てきました!」
「いえいえ、どういたしまして。まあ、とにかく頑張って。最後に1つだけ言っておくけど、人はみんな海が好きだから。幸せな時も辛い時も、海に行けば心が洗われる……そんな存在よ。だから、むしろ私の方がありがとうね」
「い、いやぁ、そう言われると照れるなぁ、ははは。それじゃ、悩み聞いてくれてありがとうございました!」
「はーい。じゃあ、また何か悩みごとがあったらいつでも電話してきなさいね。例えば、露出度の高い水着を着た女の子たちが海に入ってきて目のやり場に困るとか──」
ガチャ。ツーツーツー……。
〈了〉
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