丁寧すぎる地下組織
もうダメだ……。
やれることは全てやった。
けど、生活は良くなるどころかどんどん苦しくなっていく。
こうなったら……。
俺は意を決して携帯電話を手に取り、チラシに書かれている番号にかけてみた。
「はい、こちら地下組織です! 地下組織ってなに? という方は1を、地下組織の具体的な活動内容を知りたい方は2を、地下組織の最寄り駅を知りたい方は3を、地下組織の成り立ちを知りたい方は4を、地下組織のリーダーと直接お話したい方は5を、地下組織の近くにある美味しいランチの情報を知りたい方は6を、地下組織って何か怖いから潰れて欲しいなと思う方は7を、地下組織って何か怖いけどその反面危険な香りに惹かれる自分も居たりするという方は8を、地下組織のマスコットキャラであるチカソシオ君の派遣依頼をしたい方は9を、地下組織のテーマソングの使用許可を──」
「な、なんだこれ?? 地下組織のわりに情報オープンす過ぎ……って言うか、プッシュホンの選択肢多すぎ無い??」
「申しわけございません。伝えたい事があまりにも多すぎるため、プッシュホンの選択肢が多くなりすぎてしまいまして……」
「あっ、いや、別に謝ることじゃ……って、えっ!? 自動音声じゃなかったの!?」
「はい。録音したテープをただ流すのはせっかく電話をかけて下さった方に申しわけが無いという地下組織リーダーの意向により、生音声にてお送りしております。驚かせてしまい、大変申しわけございません。この件はリーダーに報告し、粛清されることでお詫びを……」
「いやいやいや! そんな事で粛清されないでよ! って言うか粛清ってなに?? 言葉としては聞いたことあるけど、実際周りで粛清された人とか居たことないから……」
「地下組織における粛清について知りたい方はシャープを……」
「えっ!? そんなニッチな選択肢もあったの!?」
「はい。当地下組織はお客様のあらゆるニーズにお応えするという地下訓の元……」
「チカクン!? 社訓みたいな??」
「地下訓が社訓みたいなものなのかどうかを知りたい方はシャープに続けて1を……」
「マジで!? たまたま俺がそう思っただけなのに、本当に元々そんな選択肢用意されてたの!?」
「……申しわけございません。お客様の話に合わせて選択肢を追加してしまったことを心よりお詫び申し上げます。つきましては、リーダーに報告して粛清を……」
「だから、すぐ粛清って言わないで! あくまで素朴な疑問だから!」
「かしこまりました。今後、軽はずみに粛清と口にした場合、すぐリーダーに報告して粛清を……」
「だーかーら! オレきっかけで誰かが粛清されるとか後味悪すぎるし、とにかく何があっても粛清だけはやめてちょーだい!」
「後味が悪いので、何があっても粛清だけはやめて欲しい方はシャープに続けて7を……」
「はいはい、そうするよ……って、あっ! シャープ押し忘れた……」
「地下組織って何か怖いから潰れて欲しいなと思う方ですね。では、その旨をお伝え頂くためにリーダーと直接お話頂き──」
「わっ、ちょっとタンマ! 今のは押し間違えだから無し無し!」
「ちょっとタンマして貰いたい方はシャープに続けて1、8、4を……」
「オッケー! シャープ184ね……はい、押しました押しました!」
「……タンマ完了しました」
「ふぅ、ありがとう! って、なんかもうくだらなすぎて楽しくなってきちゃったよ。このところずっと苦しい事だらけの連続で息が詰まりそうだったけど、良い意味で気が抜けたって感じ。こっちから電話かけたのに悪いけど、もうちょっとだけ地上で頑張ってみようかな……」
「地上の組織で長時間労働させられた挙げ句スズメの涙ほどの給料しか貰えなくても構わないという方はシャープ8を、いいや地下組織とは言ってるけど意外とまっとうな仕事内容なのに時給8千円も貰えちゃう方のが良いという方はシャープ9を──」
「シャープ9! 絶対シャープ9!!!!」
〈了〉
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