殺し屋さん向けテレビショッピング
「はいっ、全国の殺し屋の皆さんお元気ですか? コロショップTVの時間がやって参りました。今回もお馴染みワタクシ真田と、アイスタントのぉ?」
「永遠のC級アイドル小向沙織子でお送りします! って、誰がC級だってのよ、もう!」
「ハハッ、サオりんってば、自分で言い出したんだっつーの!」
「あっ、てへっ。とか言ってる場合じゃないですよ真田さん、全国の殺し屋さんたちが、早く紹介しろって銃口向けて急かしてますよ!」
「おっと、いっけね。そりゃヤバい。じゃあ、早速最初の商品から──」
と、長年一緒に仕事をしている感満載の軽妙トークを繰り広げる2人が映るモニターを、オレはジッと見つめていた。
裏の世界に住むヤツらは皆、オレの事を"ニードルジャッカル"と呼ぶ。
ヨダレを垂らさんばかりに殺しを楽しむ凶暴性と、針の穴を通すように仕事を正確にこなす様子からつけられた異名だ。
まぁ、オレ自身、そう呼ばれることに悪い気はしていない。
……いや、そんな事はどうでもいい。
オレは、今まさに放送されているこの番組を観ることだけを楽しみに、この一週間多くの依頼をこなしてきた、と言っても過言ではないのだ……。
「──出ました! 一発目から自慢の一品! その名も『スーパーミラクル血拭き専用タオル』! 殺し屋の皆さんの悩みと言えば、何と言っても返り血ですよね!」
「えっ、でも真田さん、殺しって言ったら、大体遠くのビルの屋上からスナイパーライフルでズドン! じゃないんですかぁ?」
「サオりんってば、バカ言ってるよ。そんなのよっぽど警戒されてない場合に限るんだから。実際の殺しは何と言っても近距離でズドン。若しくはナイフでズブリなんだから」
「へー、そーなんだ! 殺し屋さんってば大変なんですねぇ──」
フフッ。
もう13年もこの番組やってて、そんなこと知らないわけないのに知らないフリして一般視聴者の意見を代弁するとは、さすがサオりん、やるな。
堪らず、ブランデーで濡れる口元が緩んでしまうじゃないか。
「──なんとこのタオル、どんなに頑固な返り血も、さっと一拭きするだけで一発で綺麗に落ちちゃうっていう優れものなんです!」
「まぁ、凄い! それさえあれば、返り血をつけたまま、仕事終わりのデートに行って彼女がドン引き……なんて事にならずに済むんですね!」
「うん、その通り。で、さらに驚きなのが、このタオルを普通に洗濯機で洗っても、他の服に一切色移りしないんです!」
「えっ、まさか!?」
「まさかまさかでホントの話。長年の研究と、殺し屋さんからのフィードバックを結集した結果、実現できちゃったんです!」
「まぁ、凄い! でも……さぞかしお高いんですよね?」
「そうですね……このタオル1枚で……3800円! 3800円なんです! もちろん消費税込み。そして、金利は全てこちらで負担! こちらで負担なんです! しかも、今ならこちらの可愛いクマさん柄ライフルストラップもお付けしちゃうんです!」
「ヒィィィ! なんてこと~。お買い得すぎて頭がクラクラしちゃう~」
「あっ、ほらもう注文が殺到してるみたいです! テレビの前の殺し屋の皆さん! 早くしないと、売り切れちゃいますよ──」
……なんてこった、早くしないと売り切れちまう。
オレは、急いでポケットから携帯を取り出し、テレビ画面に表示されてるテロップの番号にかけた。
「……あっ、もしもし。はい、そうです。スーパーミラクル血拭きタオルを1枚お願いします。ええ、はい、3回払いで。あっ、それと、クマさん柄のストラップの色って指定できます? この前買ったとき青い服のクマさんが来たんで、できたら黄色の服にしてもらえると助かるんですが……」
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