37話「大型ショッピングセンター」

 金曜の放課後、桃井は早々に高校から自宅へと帰ると、またすぐに自宅を出た。行き着く先は近所の商店街か、それとも駅を二つ経由した所にある大型ショッピングセンターか……悠は息を潜めて、桃井の後ろを尾行していた。

 悠は幽霊なので、息を潜めたり、距離を取って足音を立てないように、そろそろと歩く必要は無いのだが、悠はその事には気付いていない。

「……」


「よう悠、どんな感じだ?」

「うわあっ!」

 後ろから、いきなり駿一の声がしたので、悠は思わず声を上げてしまった。


「しーっ!」

「いや、しーって……お前がでかい叫び声出してるだけじゃねーか……しかも桃井には見えないんだから、気にする必要も無いし……」

「え……それは、確かにそうだね……」

 悠が納得した様子で腕組みをし、こくこくと頷いた。


「おい、それより、行かないと見失うぞ」

 駿一が桃井の方を指さして、ツンツンとその指を動かし、悠に示す。

「あっ……」

 悠が急いで桃井の後へ付いた。


「……」

 悠が大声を出したり、焦りながらバタバタと桃井の後を付けたりしても幽霊なので大丈夫だが、駿一の場合は、そうはいかない。気付かれないように音を立てず、それでいて、少し後ろを向かれたところで気に留められないように、さり気ない素行を意識しつつ、悠に近付く。


「で、何かおかしい所はあったのか?」

 悠に追いついたところで、駿一は声を潜めて悠に聞いた。

「ええ? てか、駿一も結構乗り気なんじゃん! 一緒に見ればいいよ!」

 悠が目を輝かせて駿一に言った。興奮した様子で大声を出したので驚いて、駿一は少し仰け反った。仮にも桃井を尾行しているつもりになっている悠だが、どうやら、ちょっとしたことで、その事を忘れてしまうらしい。霊でなかったら、すぐに桃井に見つかってしまっていたことだろう。

 とはいえ、悠は霊体だ。悠は桃井を近くから見られて、それでいて、桃井が一時的に行方不明になっていた前の時から、桃井の事を良く知っている人物だ。

 駿一と悠は小学校の時からの幼馴染だが、桃井もまた、そうだった。正確に表現するならば、駿一と桃井との間には殆ど会話が無かったので、クラスメートと表現する方が正しいのかもしれない。しかし、悠は違う。小さい時から、積極的に桃井に絡んでいた。悠にとって、桃井はかけがえのない存在だったのだと、駿一は考えている。

 また、それは桃井の側から見てもそうだ。悠が電車に轢かれて死んだとき、ただでさえ引っ込み思案で無口な桃井は、更にそれをこじらせたかのように見えた。

 そういう仲だから、悠は桃井の気持ちの変化に敏感なのではないか。駿一は、そう思ったが……。


「うふふっ、なんかこうして駿一と桃井君と居るのって、不思議な感じがするなー、何だろうな、この感じ」

 悠の能天気な性格から察すると、そんなきめの細かい心遣いが出来るかどうかは甚だ疑問である。


「いや……大っぴらに桃井の様子を見れるのは、悠だけなんだぞ、俺は、こうしてるだけで、気付かれるリスクがあるんだ……言っとくがな、お前みたいな不純な動機で動いてないからな。だが、最近の桃井に奇行が多いのは確かだ。だから、桃井が何か事件に……それも、俺や梓さんの領分の事件に足を踏み入れてるんじゃないか。そう思ったからだ」

 最低限でも、目に見えておかしい事なら、俺が聞かなくとも、勝手に悠の方から言ってくるだろう。駿一は、そう高を括ることにした。


「えっ、それって、ティムもやられた……」

 一番目立つのは、悠も察するくらいの大事件である、首切り連続殺人である。が、駿一はそれだけの事を考えているわけではない。

「それだけじゃない。俺は超霊媒体質だから、心霊は飽きるほど見ているが……他にも、最近はUMAに宇宙人……それに妖怪だ。特に妖怪は、妖怪の里で、大量の妖怪を見ちまったし……俺が思ってる以上に、この世の中には現実離れしていることが多いらしいからな」


「忙しいよね、最近……」

 悠が苦笑する。

「お前も含めてな。そして、この事件だ。そんなさなか、桃井が最近、何かおかしい。偶然とは思えないからな。単純な好奇心の問題じゃないんだよ」

「あたしだって、単純な好奇心じゃないよ! 桃井君が心配なんだよ!」

「お前の場合はなぁ……普段の行いがあるしなぁ……」

 悠がそう言ったとしても、これまでの行いから面白がってやっているとしか思えず、悠をじとりとした疑惑の目で一瞥する駿一なのであった。

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