筒六ルート最終話 君だけの私、私だけの君
「誠さん、誠さん」
俺の隣で布団に入り、横になっている筒六は顔を近づけながら問いかけてくる。
「ん?」
「私のこと、好きですか?」
「当たり前だろ」
「私のどこが好きですか? 全部というのはなしですよ?」
「嫌なのか?」
「嫌じゃないですけど、具体的に言ってくれたほうが嬉しいです」
「そういうことなら――筒六の好きなところはいっぱいあるけど、まずは体のラインがキレイなところかな」
「え?」
「余分な贅肉がなく、水泳で鍛えられた筋肉にも無駄がないし――」
「せ、誠さん……!」
「なんだよ、まだこれからなのに」
「さすがに恥ずかしいです」
「そうは言われても――」
「じ、じゃあ、1番好きなところでお願いします!」
「これからだったのに……。1番好きなところは何事にも真面目で一生懸命なところだな」
「誠さん……」
「そこが逆に心配でもあるんだけどな」
「もう……反省してます。私だって、誠さんに心配かけたくありませんもん。これからはどんどん頼っちゃいますから」
「はは、遠慮なくどうぞ」
「誠さん……?」
「ん?」
「ありがとうございます」
「なんだ改まって」
「私、なんでも1人で出来るって思ってました。どんな困難でも頑張れば乗り切れるって……」
「…………」
「でも、そうじゃなかった。1人でやっていると思っていただけで、必ずどこかで誰かに助けられているんですね。努力しないのもダメだけど、頼らないのもダメなんだって……誠さんのおかげで気づくことが出来ました。だから、ありがとうです」
「俺のおかげなんかじゃないよ。俺も色んな人に助けられて、筒六との今があるんだ。それは今回のことに限った話じゃない」
そうなんだ。久乃さんはもちろん、紗智、三原、鈴下……それに俺が生まれるより過去の出来事にも助けられてる。もし親父が昔、久乃さんを叱っていなかったら、久乃さんは筒六のことで悩んでいた俺を助けることが出来なかったかもしれない。誰かが誰かを助け、それが受け継がれる。俺たちは生まれる前から誰かの助けなしではいられないんだ。
「でも、動いてくれたのは誠さんです。だから、私が1番にお礼を言うべきは誠さんなんです」
「筒六……」
「だから、ね?」
「ああ」
ま、今はそんな難しいことは考えずに、筒六と一緒にいられる喜びに浸るとしよう。そして、これからも一緒にい続けられるようにお互い助け合っていこう。
「さて、明日からまた学園です。頑張りましょうね?」
「うへー、そうだった……。嫌だなあ……」
「もうそんなこと言って……では、おまじないをかけてあげましょう」
「おまじない?」
「私が合図したら、『その材料は?』と言ってください」
「わかった」
「あなたは学園に行きたくなるようにな~る、行きたくなるようにな~る……はい!」
「その材料は?」
「わ・た・し」
「ぷっ……はは」
「な、なんですか? なんで笑うんですか?」
「い、いやごめん。あまりに想定外だったから」
「もう……ふんだ! 誠さんが私の体について詳しく語っていた内容を、鈴ちゃんにも教えちゃうんだから」
「うわあ、待て待て! そんなこと言われたら、鈴下にどんな目で見られるか……」
「冗談ですよ。慌てちゃって、可愛いです」
「心臓に悪いなあ」
「誠さんの好みを知るのは私1人だけでいいんです。だから、言うわけありません」
「それを聞いて安心したよ。でも、筒六の言う通りだ」
「?」
「筒六がいるって考えたら、俄然行く気になってきた」
「私もです。誠さん、これからもよろしくお願いします」
「ああ」
あれから数週間が経ち、俺と筒六の関係は続いているが、日常は前のような状態に戻っていた。筒六は元気になったことで、水泳にも集中して取り組むことができ、崩れていた調子は元通りどころか上がっているらしい。変わったことと言えば、筒六が最近、兄妹たちを連れて俺の家に来ることが多くなった。今まで1人で頑張っていたことを、俺に協力を仰ぐようになった。前の筒六からは考えつかない光景だが、良い傾向に向かっているのだから喜ぶべきだろう。
「っと、いけね……!」
そんな回想している暇はなかったんだ。早くしないと筒六に怒られちまう。俺は中庭へ急ぐべく、廊下で小走りする。くそー、紗智め。昼休みになったら起こしてくれればいいものを……。
「筒六、もう中庭にいるだろうな……」
「わっ!」
曲がり角を曲がろうとしたとき、筒六が飛び出し、驚かせてきた。
「うわあ! ――って、筒六!? 驚かすなよ……」
「誠さんが遅れた罰です」
「すまん――あれ? 中庭にいたんじゃなかったのか?」
「そうですよ?」
「なんでこんなところにいるんだ?」
「あまりに遅いから迎えに来たら、ちょうど誠さんがいたんです。だから、遅れた罰として驚かせようと思いまして」
「申し訳ない」
「反省しているのなら、早く行きましょうよ!」
筒六は俺の背後へ瞬時に回り込み、背中を押してくる。
「押さなくても、ちゃんと急いで歩くから」
筒六に背中を押されながら、俺たちは中庭へと向かう。
「私が離れたことで、いつものベンチが空いてしまってるんですよ。早くしないと誰かに座られるじゃないですか」
「別にあそこじゃなくてもいいだろ?」
「え、いいんですか?」
「なんだ? そこじゃないと、ダメなのか?」
「誠さんのことだから、私の匂いが染み付いたベンチでないと落ち着かないかと……」
「俺は変態か!」
「え……?」
筒六はキョトンのした表情で俺を見る。
「そのマジっぽい感じやめてくれ。本気で誤解を生む」
「えーっと、誤解というのはどっちですか?」
「どっち?」
「変態のほうですか? 匂い付きベンチじゃないと落ち着かないほうですか?」
「う……」
これどっち選んでも地雷だろ。えーい、ここは――
「匂い付きベンチのほうだ」
「まあ、誠さんは変態ですもんね。昨日も私に顔を擦り付けてましたし――」
「ぎゃああ! 恥ずかしいからやめてー!」
「あれ? でも、あのときクンクンしてましたよね? 変態だから匂いを嗅ぐの? それとも匂いを嗅ぐから変態なの?」
「ちょっと待て、なんだか混乱してきた……」
「結局どっちなんですか?」
「だああ、もう! ややこしいから、こうしよう! 筒六にだけ反応する変態ってことで」
「マニアックな選択肢ですね。でも、さすが誠さんです」
筒六は満面の笑みで言う。ああ……なんだか、俺の心の枷が1つ外れたような……。
「やっぱり、誠さんは誠さんですね」
「どういう意味だよ、それ」
「大丈夫ですよ、安心してください」
「なにがどう大丈夫で安心すればいいんだ?」
「ずっと変わらない誠さんだから、これからもずっと好きでいられるってことです」
「筒六……」
「えへへ……」
「全く……不意打ちだぜ」
「えへへ……知りませんよーだ!」
「やれやれ、筒六には一生敵わないかもな」
「あはは……ねえ、誠さん?」
「ん?」
「ずっと……ずっと、大好きです!」
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