鈴ルート4話 アーケードと家庭用

「えー、今日は学園祭、お疲れさんでした。明日は振替休日だが、学園祭の余韻に浸りすぎず、問題は起こさないこと」

そっか、明日は休日だったな。

「明後日からまた通常どおり授業が始まる。今後は大きな学園行事もない。お前たちも来年は3年生になる。今のうちにきちんと自分を見つめ直して、将来のことを考えるように」

あ、紗智に鈴下が家に来ること言っておかなきゃ。

「では、以上でHRを終わる」

築島先生の言葉で、ぞろぞろと教室から出て行くクラスメイトたち。全員、その顔には笑みが浮かび、今日の出来事を振り返っている様子だった。みんな、学園祭楽しんだんだろうな。

「誠ちゃん、帰るよ?」

「紗智」

「なに?」

「今日、うちに鈴下が来るから」

「へ?」

「だから、鈴下が遊びに――」

「せせせ、誠ちゃん!?」

「なんだよ?」

「そういうことはなんでもっと早くに言わないの!? あーもう、どうしよ! なにも用意してないのに!」

「なにをそんなに焦ってるんだよ?」

「だって、鈴ちゃん来るんでしょ? 鈴ちゃんの分もご飯用意しなきゃなのに、食材買ってないよ。もう! 知ってたんなら、せめて前日には言ってよ」

「さっき決まったことなんだから、仕方ねえだろ」

「こうしちゃいられない! あたし、商店街に寄って帰るから、先に帰ってて!」

紗智は俺と三原を置き去りに教室から出て行った。

「あ、おい――行っちまった」

「紗智さん、なんだかすごいです」

「母親みたいな反応するやつだな」

「単純に嬉しいのですよ」

「嬉しい?」

「鈴さん、普段はあまり心を開かれないというか、どこか他人と距離を置いてる雰囲気ですから。紗智さんももっと仲良くしたいのだと思います」

「鈴下は俺の客なんだけど」

「まあまあ、たまには鈴さんも加えて3人でお食事するのも、よいのではないですか?」

「そうなんだけど、鈴下に飯食べていくかどうかすら聞いてないんだぞ?」

「食べないなら、食べないでもいいじゃないですか。……羨ましいです」

「三原も来るか?」

「お気持ちは嬉しいのですが、お父様が心配しますので」

心配のあまり、俺の家に怖いお兄さん方が来られても困るな。

「残念だけど、仕方ねえな」

「すみません。鈴さんはどちらに?」

「校門で待ってるはずだ」

「では、急ぎましょう」

「ああ」


三原と校門まで行くと、そこにはすでに鈴下の姿があった。

「遅い」

「悪い、待たせたな」

「すみません、私がお引き止めしていたせいで」

「ねえ、ちょっと!」

「?」

鈴下に袖を引っ張られ、顔を引き寄せられる姿を見て、キョトンとする三原。

「なんだよ?」

「麻衣もあんたの家に来るの?」

別に小声で言わんでも。合わせるけどさ。

「いや、三原は来ない。途中まで帰り道が同じなだけだ」

「そ」

俺の言葉に納得したのか、少し距離を置く鈴下。

「あの……私、もしかしてお邪魔でしょうか?」

「そ、そんなことないわよ。それよりも、さっき紗智を見かけたんだけどさ」

「どうかされたのですか?」

「なんかすごい勢いで走って行って、わたしを見て、『またあとでー!』とか言ってたけど」

紗智のやつ、鈴下が飯食うかどうかすらわからないのに。

「あれ、なんなの?」

「ふふ、直にわかると思いますよ」

「?」

「紗智が勝手に言ってることだ。あまり気にするな」

「ふ~ん、ならいいけど。早く行きましょう」

「はい」


いつも三原と別れる場所までたどり着き、三原は俺たちから離れる。

「では、私はこちらなので」

「またな、三原」

「じゃあね、麻衣」

三原は一礼し、自宅へ向かっていった。

「いつも麻衣と帰ってるの?」

「紗智も一緒だ。今日は1人で商店街へ食材の買出しに行ったから、いないけどな。登校も下校も大体は3人だな」

「そうなんだ」

「鈴下は誰かと登校したり、下校したりしないのか?」

「……わたしは朝早いから、1人」

「へえ、そうなんだ。何時ぐらいに学園に来てるんだ?」

「7時ぐらいかな」

「はやっ!? そんな早くに来て、なにかすることあんのか?」

「とくにないけど」

「早起きなんだな。教室に来ても、誰もいないだろ?」

「たまに筒六がいる」

「あー、仲野か。あいつ、水泳部だから朝練でもあるんだろ」

「大抵、わたしのほうが早いけど、すぐ後に来る」

「そっか、そこで仲良くなったのか?」

「そんな感じ」

「で、鈴下はそんなに早く登校して、なにするんだ?」

「なにもないって、さっき言ったでしょ」

「じゃあ、なんでそんな早く登校するんだ?」

「別に……」

「…………」

「ただ……」

「?」

「家にいたくないだけよ……」

「なにかあるのか?」

「あーもう! 言ったからいいでしょ! それ以上聞くな!」

「わかったわかった。そんなに怒るなよ」

「まったく! せっかく今から楽しみが待ってるってのに!」

「楽しみ?」

「は、や……違うから! そんなんじゃないから!」

「鈴下……まさか……」

「違うって! 初めて触る家庭用ゲーム機が楽しみとかそんなんじゃ――」

「そんなに俺の家に来るのが楽しみだったのか」

「……へ?」

「いやー、いつもつんけんしてるから心配してたけど、そこまで思ってくれる間柄に――」

「それはないから」

慌てもしないとは……なんか悲しい。

「で、まだ着かないわけ?」

「あそこだ」

「へえ、ここがあんたの家……」

「珍しいものなんて、ないけどな」

「見ればわかるわよ」

「はい……」

「親は?」

「親父が出張で、お袋はそれの付き添いでいない」

「ふーん……」

「どうかしたのか?」

「なにも。早く入りましょ」

「おう」

家に入り、俺は鈴下を自室に通す。

「適当にくつろいでくれ」

「言われなくても、そうする」

「なにか飲むか?」

「いらない」

「そか」

「ねえ」

「なんだ?」

「あれって、もしかしてゲーム機?」

部屋のテレビの下に置いてある据え置きのゲーム機を指さしながら、問いかける。

「するどいな、鈴下。まさしくそうだ。紅白色が『ファニーコンピュータ』で、灰色のがその次世代機『スーパーファニコン』だ」

「思ってたのより、小さいのね? ゲーセンのはすごく大きいのに」

「あんなにデカイと、ご家庭で使えないからな。これの他にもまだゲーム機はあるんだけどな」

「どこにあんの?」

「いや、俺は持ってないけど、発売されてるってことだ」

「へえ、色々あるのね」

「では、早速! 今日、ゲットした『トルイヌ』を――」

「ちょっと待って」

「どうした?」

「その前に別のがしたい。家庭用ゲームがどんなのか見てみたいし」

「それもそうか。今日、初めてなんだし、まずは試しプレイが必要だな。よし、ならばファニコンから手をつけよう」

「出来れば、私の知ってるのがいいんだけど」

「心配するな。鈴下がプレイしたことあるのも持ってるから」

「なんのゲーム?」

「まずはこれ『ダンキーコング』だ」

「ああ、これね。商店街のゲーセンにもあるわね」

「これならプレイしたことあるだろ?」

「あるもなにも、あのゲーセンでのハイスコアはわたしだし」

「あー、ハイスコアの名前の『BELL』って、鈴下だったのか」

ん? 待てよ……。

「あそこのゲーセンのハイスコアって、全部『BELL』じゃないか?」

「早く新台来ないかな~。もうやり尽くしちゃったし、ハイスコアも塗り替えられないしで飽き飽きしてんのよね」

「化け物か……」

「それより、早く『ダンキー』させてよ」

「そうだった。どうせなら、起動からやってみろよ」

「そうね」

鈴下の手にカセットを渡す。

「まずは端子部分をフーフーして」

「フーフー」

「次に本体の挿入部分の蓋を開く」

「はい」

「カセットを挿す」

「よいしょ……これでいいの?」

「オーケーだ。次に左の電源スイッチを上げろ」

「んしょ……」

テレビ画面は深緑一色を表示していた。

「家庭用の『ダンキー』って斬新な作りね」

「違う違う。これは起動に失敗している」

カセットを引き抜き、端子部分に息を吹きかける。

「これでどうだ」

「あ、『ダンキー』」

「これも10年前のゲームだからな。起動できないことが多いんだよ」

「でも、アーケードのやつより、グラフィックとかサウンドがチープじゃない?」

「あんなデカイ筐体と性能を一緒にするな。確かにアーケード版に比べると劣ってるけど、それでも良く再現されてるし、プレイ自体にはなんの支障もない」

「なら、試してみようじゃない。コンパネは?」

「そろそろ、ゲーセンから頭を離せ。本体の横にコントローラーがついてるだろ?」

「こんなにちっちゃいの!?」

「おうよ、コンパクトで可愛いだろ?」

「やりづらそう……」

「物は試しだ。やってみろって」

「そうね」

鈴下はコントローラーを手にプレイを開始する。

「あ、始まった」

「基本的にはAC《アーケード》版と同じだ。移動やハシゴの上り下りは十字キー、ジャンプはAボタン」

「こんなの楽勝よ。自分で言うのもなんだけど、馬鹿みたいにやってたからね」

10分後――

「もうなによ、これ! ちゃんとジャンプしたはずよ!」

「鈴下~、25mステージ好きだな~」

「うっさいわね! 好きでここばっかりやってない!」

20分後――

「火の玉~!」

「そろそろ、75mステージが恋しいぞ?」

「わたしだって、恋しいわよ!」

30分後――

「や、やった!」

「ついに、愛しのレディのところにたどり着けたか」

「ふ、ふふーん。ちょっと手こずったけど、わたしにかかればこんなもんよ」

あんなにムキになっといて、それ言えるか。

「ともかく、やっと次のステージだな」

「この調子でいくわよー――あれ?」

「あ~あ……」

鈴下が意気込んで、コントローラーを引っ張った衝撃で、電子音を鳴らしながら、画面がフリーズした。

「な、なにこれ? 家庭用はこんな仕様なの?」

「バグったな……」

「バグ?」

「鈴下がコントローラーを引っ張った衝撃で本体が揺らされたんだ。それでバグったんだよ」

「それ、バグって言わなくない?」

「そうだが、画面的にはそんな状態だから、そう言われてるんだ」

「どうすれば直るの?」

「無理だ。リセットしろ」

「せっかくここまできたのに、やり直せっての?!」

「動かないものはしょうがないだろ……ほいっと」

俺は躊躇なく、本体右のリセットボタンを押した。

「あ……ああ……」

画面に現れたのは再び、英字で『ダンキーコング』と書かれたタイトル画面だ。

「この鬼! 悪魔!」

「だって、仕方ねえだろ。あのままにしてたら、一生出来ないぞ」

「そうだけど……そうだけど……」

鈴下の目はかなり潤んでいた。そこまで本気だったとは……。

「わ、悪かったって。そんなに落ち込むとは思わなかったんだ。俺なりに鈴下を思ったことなんだって」

「う、うう……なんてことすんのよ……」

うわあ、本当にどうしよう……。マジ泣きしてるぞ。

「本当にすまん! 代わりに俺が25mステージをクリアするから」

「それじゃ意味ないじゃん……」

確かにそうだ。ゲームは自分でクリアするから意味があるんだ。

「ど、どうすればいい?」

「知らないわよ……ばかぁ……」

俺だってわからねえよ……。誰か俺たち2人を助けてくれ~……。

「はい、2人とも! ご飯出来た……よ?」

「あ……」

「ぐす……ぐす……」

そのとき、俺は全身から冷や汗が吹き出るのを感じた。紗智は知らない内に家へ来ており、すでに夕飯も出来上がっているようだ。そして、それを知らせに俺の部屋へ来たってわけか。扉の向こう側から、腹が鳴りそうな良い匂いが漂ってきている。って、そんなこと考えている暇ない!

「誠ちゃ~ん?」

「紗智、これにはわけがあってだな……」

「鈴ちゃん? なんで泣いてるの?」

「……こいつが無理矢理~」

その言い方アウトだから! まずいほうに思われるから!

「誠ちゃ~ん? ちょ~っと、お話しましょうね?」

「あ、ちょっと!? 俺の話も……あーーー!」

紗智に襟首を掴まれ、別室へ連行される。

「うう……ばかぁ……」


紗智に絞られた後、俺と紗智と鈴下の3人は、紗智が作ってくれた美味そうな晩飯を取り囲みながら、先ほどの出来事を振り返っていた。

「理由はわかった。誠ちゃんが悪い」

「はい……」

「でも鈴ちゃん? 誠ちゃんは決して、鈴ちゃんを悲しませようと思って、やったことじゃないってことは理解してね?」

「……うん」

「いや、俺が鈴下の気持ちをちゃんと聞きもせずに判断したせいだ。すまん、鈴下」

「わたしのほうこそ、取り乱して……ごめん。嬉しさの反動でつい……」

「なら、2人とも仲直りね。――はい」

紗智は俺と鈴下の手を取り、握手をさせる。

「握手は仲直りの印なんだよ?」

「ああ、そうだな」

「……うん」

「手を握ればお互いの体温を感じるでしょ? そしたら、こんなに暖かい人をもう悲しませたくないって思えるでしょ?」

鈴下の手は冷たかったが、紗智の言い分はなんとなく理解出来た。

「ごめんな、鈴下」

「わたしも……ごめん」

「みんな仲良しが1番だよ。2人ともお腹空いたでしょ? ご飯食べよう?」

「鈴下、うちで飯食べても大丈夫か?」

「うん、平気」

「親に連絡とかしなくていいか?」

「……大丈夫」

「そうか」

「いつものことだし……」

「え~、ちゃんと帰らないと心配しちゃうよ?」

「いいの! それより、お腹空いたから早く食べよ!」

「あ、うん! いっぱいあるから、どんどん食べてね!」

「…………」

鈴下、家でなにかあるのかな……。家へ来る前に聞くなって言ってたし、放っておいたほうが鈴下のためなのかな。結局、その日はなにも聞けないまま、食事を済ませた。


「お邪魔したわね」

鈴下の帰宅を見送るために、俺と紗智も玄関の外へ出る。夜中だし、なにかあったらいけないから、俺は途中まで鈴下を送るんだけどさ。

「ううん、鈴ちゃんといっぱいお話出来て楽しかったよ。またいつでもおいでね」

「ここはお前ん家じゃねえだろ」

「誠ちゃんは来て欲しくないの?」

「そりゃ、お前――」

「…………」

俺の次の言葉を待つように、ジーッと見つめてくる鈴下。

「毎日のように来ていいぞ。今日だけじゃ物足りないだろ?」

「そ、そこまで言うなら来てあげてもいいかな」

やっぱり、上からなんだな。鈴下らしくていいけどさ。

「じゃあ、わたし行くから」

「誠ちゃん、ちゃんと送ってね?」

「任せとけって」

「別に1人で帰れるわよ」

「だーめ! こんな遅い時間に女の子、それも鈴ちゃんみたいな可愛い子なら、なおさら危ないよ」

「そうかな……?」

「そうだよ。誠ちゃんはこんなだけど、やるときには頑張ってくれるから」

「おい、さらりとひどいこと言うな」

「ありがと、紗智」

「うん。じゃあ、気をつけてね」

「またね」

「行ってくる」

俺と鈴下は紗智に手を振りながら、歩き出した。

「こんな遅くなって、大丈夫だったか?」

「平気よ。いつもこんなんだし」

「家の人、心配してるんじゃないのか?」

「…………」

「鈴下が聞かれたくないって言うんなら、あまり口出しできないけどさ」

「…………」

「少なくとも、俺は鈴下のことが心配なんだ」

「……あいつは」

「ん?」

「あいつは……わたしのことなんて、心配してないよ」

「鈴下……」

「…………」

「あいつって――」

「あー! それにしても、今日のは失敗だったな」

「え?」

「ダンキーよ。まさか家庭用があそこまで違うものだったなんてね」

「あ、ああ、それか」

「ボタンはまだしも、あの十字キーってのがまだ慣れないなあ。ちゃんと押せてるのか、不安になる」

「コントローラーは壊れてなかったろ?」

「うーん、そうじゃなくて、今まではレバーを倒してたからさ。感覚が全然違うじゃない?」

「そうだな」

「横移動でボタン押すってのが違和感でさ。まずは、あれに慣れないとね」

「鈴下なら、すぐにやれそうだけどな」

「うん、かもね。まずはアクションゲームから制覇して、それから――」

鈴下の家のことを聞きたかったが、そんな雰囲気にさせないが如く、鈴下はゲームの話を持ちかけてくる。多分、これ以上聞くなってことだろう。


「もうここでいいわよ」

「大丈夫か?」

「ここから5分もかからないし、平気」

「鈴下」

「なに?」

「今日は本当、ごめんな」

「気にしないで。わたしも……悪かったし」

「……じゃあ、またな」

「ねえ!」

俺が背中を向けようとしたとき、鈴下が声をかけてきた。

「ん?」

「明日さ、なにか用事あるの?」

「ないぞ」

「明日、あんたの家に行ってもいい?」

「構わないぞ」

「わたし、明日はバイトが昼まであるから、午後からになるけど」

「じゃあ、それまで家で待ってるから」

「そ。じゃあ、また明日」

「またな」

鈴下の背中が見えなくなるまで、俺は見守り続けた。


「おかえり、誠ちゃん」

自宅に戻るとリビングにはまだ紗智がいた。

「まだいたのか」

「失礼だなー。帰ってくるまで心配してたのに」

「はいはい、ありがとう」

「なんか雑~。あ、そうだ」

「ん?」

「あたし、明日はいないから」

「用事でも出来たか?」

「お父さんとお母さんと一緒にお出かけするの。ちょうど3人の休みが合ったから」

「そうか」

「でも、夕方には帰ってくるから、夕飯は作りに来るね。朝とお昼はなにか食べてて」

「夕飯さ、鈴下の分も用意してくれねえか?」

「明日も鈴ちゃん来るの?」

「バイトがあるらしいから、昼からだけどな。今日みたいに夜までいるだろうから」

「りょーかい」

「頼むな」

「また泣かせたらダメだよ?」

「そんなことしねーよ」

「うん、そうだよね。あたしも帰るね」

「送ってくぞ?」

「隣なんだから、いいって」

「そか」

「また明日ね、誠ちゃん」

「また明日な」


紗智が帰った後、すぐさま風呂に入り、自室でゆったりタイム。

「ふう……」

「やほー、誠ちゃん」

「どうした?」

「特にこれということはないけど、なにしてるかなって思って」

「風呂上りのゆったりタイムだ」

「あ、じゃあ、湯冷めしちゃうかな?」

「温まった体には涼しいから、大丈夫だ」

「そう?」

「なにか聞きたいこと、あるんじゃないか?」

「どうして?」

「顔に書いてある」

「……誠ちゃんさ」

「ん?」

「鈴ちゃんのこと、どう思ってるの?」

「鈴下?」

「うん」

「うーん、改めて言われるとなあ……」

ゲーマー仲間? 手間のかかるやつ? 素直じゃない後輩?

「そうだな……かわいい後輩ってやつ?」

「なんで疑問なの?」

「聞かれると思いつかないんだよ」

「そっか」

「鈴下がどうかしたのか?」

「ううん、なんでもない。明日は鈴ちゃんのこと、ちゃんと考えて接しないとダメだよ?」

「わかってるよ」

「よろしい。じゃあ、おやすみ」

「おやすみ」

紗智と同時に窓を閉める。体はすっかり平温に戻っていた。

「鈴下ねえ……」

どう思ってるか……。やっぱり、ゲーマー仲間ってのがしっくりくるんだけど、心配になるときもあるんだよな。その辺、後輩として見ているからなのか。

「わかんね」

とりあえず今は、鈴下にもっと家庭用ゲームで遊んでほしいってのが1番だな。

「明日も楽しみだな……」

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