紗智ルート18話 久しぶりのデート
「おっはよー、誠ちゃん!」
デート当日の朝、紗智はいつも通りに起こしに来る。
「ん……あ、紗智、おはよ」
そして、俺もいつも通りに紗智の胸を堪能する。
「きゃっ……ちょっと、誠ちゃん! 触ってる、んぅ、触ってるからあ……」
「ん~、わかってるよ~」
「わかってるんなら、はなさんかーい!」
「ほごぉ!」
久しぶりの枕アタックを顔面で受け止める。わざとすることは許されないらしい。
「起きてたんなら、お布団から出ててよ」
朝食の置かれたリビングのテーブルを前に、椅子に座りながら紗智にお説教されてしまう。
「紗智に起こされないと、1日が始まった感がなくてさ」
「またそんなこと言ってえ~」
「ささ、朝飯が冷める前に食べようぜ?」
「あたしのセリフだって~」
「今日どこ行くか決めたか?」
「んー、まだ決めてない」
「俺、いいとこ思いついたぜ?」
「え、どこどこ?」
「それは行ってからのお楽しみだ」
「気になるなあ」
「楽しみにしておいて、損はないと思うぞ?」
「気になるけど、誠ちゃんがそう言うなら期待しておくよ」
「任せとけ」
朝食を食べ終え、俺たちは家から出た。
「うう~、さっぶいねえ」
「中もちゃんと着込んできたか?」
「ちゃんと着てるよ。でも、寒いものは寒いでしょ?」
「そうだけどな――1つ気になってたんだけど」
「なに?」
俺は紗智の手にあるカバンに付けられた”ある物”を指差す。
「その『天使猫』さ、わざわざ学園のカバンから、私用のカバンに付け替えてるのか?」
「うん、そうだよ」
「そんな面倒なことしなくても、別のをつければいいのに」
「これじゃなきゃダメなの!」
「そんなに大事なものなのか?」
「大事だよ! だって――」
「だって?」
「……なんでもない! それより、早く行こうよ!」
「わかったわかった」
このキャラクター、よっぽど好きなんだな。今度探してみて、あったら買っておいてやるか。
車通りの少ない道を俺たちは歩き続ける。目的地まで歩けば少し遠いけど、交通機関を利用するより紗智と2人で喋りながら歩いて行くほうが楽しい。
「ねえねえ、そろそろどこに行くのか教えてよ」
「うーん、普段行かないところってだけ教えておく」
「この近くにそんな場所あったっけ?」
「あるぜ、とっておきのがな」
「えー、なんだろ?」
読み通り、紗智の記憶からは消し去られてるようだな。くっくっくっ、紗智の驚く顔が見ものだぜ。
「……ん?」
「どうしたの、誠ちゃん?――あ」
俺の視線の先に2人の子供が空き地でボール遊びをしているのに、紗智も気づいたようだ。
「どうしたのー、子供なんかに見とれて」
「見とれてたわけじゃねえんだ。ただ懐かしいって思ってさ」
「懐かしい?」
「ああ、俺たちも昔はああやって、遊んでたなって」
「そうだったね。なんにも考えずにただ毎日、誠ちゃんと遊ぶのが楽しかった」
「あの時の俺らが今の俺らを見たら、冗談かと思うだろうな」
「あはは、そうだね。あたしもあの頃は誠ちゃんとこうなるなんて、思ってなかったもん」
「俺もだ」
「ねえ、誠ちゃん?」
「ん?」
紗智は2人の子供の姿を見つめ、俺の手をギュッと握りながら語りかけてくる。
「あの頃と今とどっちがいい?」
「…………」
「誠ちゃん?」
「バカだな、紗智」
俺は握られてないほうの手で紗智の頭を撫でる。
「俺にとっては紗智との全てが大切だ。あの頃と今に順位なんてつけられねえよ」
「……嬉しい」
「ほら、急ごうぜ? 俺、もっと紗智との思い出つくりたいからな」
「うん、行く!」
気持ちを温かくして、俺たちはまた歩き始める。そうして30分ほど、目的地である水族館へ到着した。
「ここは――」
「どうだ、驚いたろ?」
「こんなところあったの、すっかり忘れてたよ」
「幼稚園の頃以来だっけ?」
「そうそう。遠足かなにかで来たんだと思う」
「そうだよな。さすがの紗智もこの場所は忘れてたようだな?」
「完全に忘れてたよ。誠ちゃんはよく覚えてたね?」
「昨日、紗智と寝る前に喋った後、急に思い出してさ。紗智と2人っきりで来たことなかったし、デートっぽいだろ」
「うん、ナイスアイデア~だよ!」
「だけど、久しぶりに――しかも、一度しか来たことないから、ほとんど記憶にないな」
「あたしもー」
「館内マップ見ながら、ブラブラ見て回ろうぜ」
「うん!」
「見て見て、誠ちゃん! お魚いっぱい!」
紗智は水槽を見るたびにはしゃぎ回る。
「水族館だから、当たり前だろ?」
「だって、こんなにお魚いるの普通見ないじゃん」
「確かに圧巻だな」
「こんな大きな水槽に色んなお魚いれてて、大丈夫なのかな?」
「大丈夫って?」
「大きいのが小さいのを食べちゃわないかなって」
「他の魚食べるようなのと、一緒にいれるわけないだろ。そんな水族館あったら、狂気だぞ」
「あはは、そうだよね。あ、見てよ! この水槽好きなんだ!」
「ああ、こういう円柱形のやつ、面白いよな」
「あはは! 誠ちゃんの顔、ブサイクだあ!」
水槽の反対側から、俺の顔を見て笑ってやがる。
「そういう紗智だって、すげえ横長の顔になってるぞ」
「ぷっ、あはは!」
「ははは!」
「ねえねえ! あっちも見てみようよ!」
「ああ、いいぞ」
「うわー、これなんの貝かな?」
「ホタテとかアワビじゃねえの?」
「それ食べたいだけでしょ?」
「お、あそこには伊勢エビがいるぞ」
「あれはザリガニだよ。食べ物ばっかりじゃん」
「海の幸は美味しいものばっかりだよな」
「せっかくの水族館が台無しだよ。――あ、あれ見て!」
紗智はエリア内の中央に設置されてある立て看板に気づき、近づいていく。
「イルカショーのご案内?」
「見ていこうよ!」
「ん、ちょっと待て」
「あ……」
公演予定日にデカデカとバツ印がされている。なになに――
「えーと、イルカが体調不良のため、長らくお休みさせていただきます、か」
「えー……」
「再開はいつになるか、未定みたいだな」
「そんなー……」
「そんなに落ち込むなよ」
「でも……」
「また再開したときに見に来ればいいさ。それにほら、あれ見てみろ」
壁にペンキで記された矢印とそこに書かれている文字を指差す。
「ペンギンさん?」
「あっちに行けば、ペンギンエリアがある。それに少し待てば、ペンギンの行進ショーがあるようだぜ? イルカは無理だけど、ペンギンだけでも見ていこうぜ?」
「うん! ペンギンさん、見たい!」
「よし、行こう!」
「うわあ、見てよ、誠ちゃん! ペンギンさん、いっぱいいるよ!」
屋外にあるペンギンエリアには広いスペースの中でペンギンが職員の後に続いて、歩いていた。
「俺たちが前来たとき、ペンギンいたっけか?」
「あー、どうだっただろう。いたような、そうじゃないような」
「お、スタッフが餌やってる」
「ホントだー。いい食べっぷりだね」
「すげえな。次から次に魚が滑り込むように口の中に消えていくぞ」
「噛んでないのかな?」
「丸呑みしてるように見えるぞ」
「喉に引っかかったりしないのかな?」
「うーん、あの食べ方を見るに大丈夫なんじゃないか?」
「すごいね、ペンギンさん。しかも、いっぱい食べてるし」
「1匹であれだけ食うんだから、あの数のペンギンを腹一杯にするには大変そうだな」
「お魚買ってくるの大変そう。スーパーに置いてあるのじゃ足りないよね」
「紗智よ、こういうところの餌はスーパーとかで買わないんだぞ」
「え!? でも、キャットフードとかドッグフードはスーパーにも売ってるよ?」
「それは個人でも気軽に飼えるペットだし、数も多いからだろ。犬や猫とペンギンを同一にしてるのは紗智ぐらいのもんだな」
「うひー、恥ずかしーよー」
「水族館みたいな施設の動物の餌はちゃんと供給してくれる業者があるの」
「わかったから、細かく説明しなくていいよー。もっと惨めになっちゃう……」
「そう落ち込むなって。今に始まったことじゃねえだろ」
「ひどい言われようだよ……」
「それより、ペンギン見てみろよ。てくてく歩いてるぜ」
「きゃー、ペンギンさん可愛いよー!」
「スタッフの後ろをずーっとついてまわってるな」
「ご飯足りなかったのかな? ――あ、段差をぴょんって跳んでる」
「足が短いから、そうしないといけないんだな」
「でも可愛いなあー」
「お前、ペンギン好きだったっけ?」
「ううん、ちゃんと見たのは今日初めてだけど、こんなに可愛いって思わなかったよ」
「この後のペンギン行進ショーは見ものだな」
「うん! 早く始まらないかな」
イルカショーが見られないときはどうしようかと思ったけど、紗智は喜んでるようだし、ペンギンに感謝だな。
「ペンギンさんたち、スタッフさんの後ついて行って、どこかに行ってるよ」
「もしかして、ショーの準備じゃねえかな?」
そう思った矢先、職員による館内放送が始まった。
「これより、10分後にペンギンの行進ショーが始まります。是非、見物にいらしてください」
「誠ちゃん!」
「ああ、行こうぜ」
ショーのある会場の場所を指し示す看板に従って、俺は紗智を手を取り、その場所へ向かった。
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