紗智ルート3話 学園祭、スタートだよ!

「…………」

「誠ちゃーん……」

「…………」

「誠ちゃーん……起きてるー?」

「…………」

「まだ寝てるか……」

「…………」

「もうなんで気づかないんだよー」

「…………」

「……まだ起きないよね?」

「…………」

「なら、今のうちに――」

「…………」

「うーんっしょ、い、意外に重いなあ……」

ん、紗智か……?

「う……ううん」

「!?」

「すう……」

「ビ、ビックリしたあ……。起きたかと思っちゃった」

「…………」

「もう一度……うーんっしょ、うーんっしょ」

なにやってんだ……? 手、引っ張られてるような……?

「…………」

「よいしょっと。ふう、なんとか乗っけれた」

手のひらのこの感触……毛?

「…………」

「……えへへ」

「…………」

「ここに来るまで一苦労だよ……」

「…………」

「君がしてくれれば、こんな苦労はしないんだぞー」

頬にムニっとした小さな圧力がかけられてる。なんだか意識が戻ってきたような。

「…………」

「……バカ」

「う、うう、ううん」

「ひぇ、あひゃあ!」

ううーん。なんか触り覚えがある感触だな。

「もちもちだなあ……」

「ちょ、誠ちゃん、ダメ、だよお」

「うあー、もうダメだって、紗智ー」

「せ、誠ちゃん、それはこっちの、うう、セリフ、だって」

「これ以上は、いくらなんでも……」

「だから、それは、んん、あたしが――」

「食べきれないよー」

「誠ちゃんの~――」

「んー、むにゃむにゃ~」

「バカー」

「ぶりんっ!」


「…………」

「…………」

この空気も久しぶりか? こいつはいつになったら、わざとかそうじゃないかの区別をつけてくれるんだろうか。

「紗智よー、俺だって寝ている間は無意識なんだぜ?」

「…………」

「それなのに、そんなに怒んなくてもいいじゃねえか」

「被害者はあたしなんだよ?」

「いや、そうだけどさ。俺だってやりたくてやってるわけじゃ――」

「あたしのが嫌だって言うの?」

「んなこと言ってねえだろ。いや、それよりその言い方だと、触ってほしいみたいになってるの気づいてるか?」

「そんなことないもん」

一体なにがどうなってんだよ。昨晩はテンション低かったくせに、今朝は怒りっぽいしでわけわかんねえよ。

「……せっかく、少し楽しんでたのに」

「あ? なんだよ、それ?」

「なんでもありません」

「悪かったって。俺も出来る限りしないように心がけるからさ」

「嘘だ。そんな気ないでしょ」

「本当だって」

俺も自分でどうすればいいか、わからんけど。

「とりあえず、機嫌直してくれよ? 今日は学園祭だぜ?」

「…………」

「今日までみんなで頑張ってきたのに、お前だけそんなだとみんなが心配するだろ?」

「それは……」

「後でいくらでもサンドバッグになってやるからさ、学園祭終わるまではいつもの紗智に戻ってくれよ」

「…………」

「俺だって、そのほうが嬉しいぞ」

「誠ちゃん……」

「だから、な?」

「……わかった」

「ありがとな」

「じゃあ、食べ終わったら先に玄関に行ってて。あたし、食器片付けるから」

「おう、悪いな」

これで機嫌直してくれればいいけど。


「お待たせー」

紗智が外に出たあと、扉の鍵を閉める。

「おう、行こうぜ」

「うん。よっと!」

そして、いつものように紗智が俺の腕に抱きつく。

「っと、今日は受け止めれたぜ」

「えへへ、ぽっかぽっか~」

今日は拒否しないでおこう。

「今日はいよいよ学園祭だね」

「って、昨晩も今朝も言ってるだろ」

「そうだけど、改めて今日が学園祭なんだなあって思っちゃって」

「学園祭の準備を手伝っていたのに、1番身近に感じねえな」

「あー、それわかるわかる。なんか逆に自分とは関係のないことだと思っちゃうよ」

「後は会長がどうにかするだろうし、俺たちは俺たちで学園祭を楽しむとしようぜ」

「あたしたちがやれることはやったしね」

「そういうことだ」

「それで誠ちゃん! 今日はどこ回る?」

「その前になにがあるのかよく知らないんだけど……紗智はどこか行きたいとこあるか?」

「あたしは色々回りたいところあるけど、誠ちゃんは大丈夫?」

「なにが?」

「いやその、疲れちゃわないかなって……」

「ああ――」

前の買い出しのこと、まだ気にしてたのか。

「俺のことは気にすんなよ。紗智が行きたいとこについていくからさ」

「え、いいの?」

「おう、どこでもオーケーだ」

「ありがとう、誠ちゃん」

ふう、今朝はどうなるかって思ったけど、いつもの調子に戻ったようで安心したぜ。ここのところ、紗智の様子が変になるのが多い気がするんだよな。妙にそわそわしてるかと思ったら、急に落ち込んだりするし。紗智には紗智なりになにか考えることがあるんだろ。俺にはさっぱりわからんが。

「あ、麻衣ちゃんだ。おーい!」

俺の腕が紗智から解放される。

「おはよう、麻衣ちゃん」

「よお」

「おはようございます、紗智さん、鷲宮さん」

「今日はいよいよ、学園祭だよ!」

「はい、そうで――ふわあ……」

「なんだ三原、寝不足か?」

「はい、少々……」

「なにかあったの?」

「いえ、そういうわけでは――」

「夜更かしでもしてたのか?」

「故意ではないのですが……」

「なにか急用でも?」

「あ、あの、その――」

「ん?」

なんで目が泳いでるんだ?

「わ、笑わないで聞いてくださいね?」

「うん」

「実は今日の学園祭が楽しみで、眠れなかったのです」

「へ?」

おいおい、子供じゃないんだから、そんなのってあるのか。

「ぷっ、ふふ……」

「わ、鷲宮さん、笑わないって……」

「いや、すま、ぷふ、そうくるとは思わなくて」

「だ、だから、あまり言いたくなかったんです……」

「ちょっと誠ちゃん! 笑っちゃダメ! 麻衣ちゃん、かわいそうでしょ」

「す、すまん、三原。もう笑わないから」

「絶対ですよ?」

「ああ、了解だ」

三原って意外性に溢れてるよな。どんな爆弾背負ってるかわからん。


校門に着いたときから感じていたが、校舎内に入ると学園祭の雰囲気がより一層伝わってくる。

「わあ、昨日も見ましたが、学園祭の雰囲気で溢れてますね」

「でも、昨日より装飾増えてないかな?」

「それは今朝、取り付けたものなのだよ」

俺たちの背後から、知らぬ間に会長が近づいていた。

「会長、おはようございます」

「おはよう、君たち」

「おはようございまーす、きぬさん」

「おはようございます、きぬさん」

「あ、あんたたち――」

「おはようございます、先輩方」

と思っていたら、階段から鈴下と仲野も下りてきていた。

「とオプション先輩」

「俺のほう見ながら、さらりと言うな、仲野」

「それできぬさん? 今朝取り付けたっていうのは?」

紗智が会長にさきほどの疑問を伝える。

「ああ、今朝早くに生徒会役員と教員で飾り付けを増やしたのだ」

「わたしたちの飾り付けじゃ足りなかったの、きぬ?」

「別に隠していたわけでも、遠慮したわけでもないんだが、当初からの予定だよ」

「きぬ先輩、予定というのは?」

「今朝、取り付けたものは学園祭当日に行うと当初から決まっていたものだ。校門に設置してある入場門のようにね」

「確かにそれは昨日の時点ではまだ設置されていませんでした」

三原の言う通り、昨日俺と紗智が飾り付けをした入場門は、昨日の放課後にはなかったが今朝には設置してあった。

「学園側にも色々と都合があるんだよ」

「毎度のことですけど大変ですね、会長」

「ぼやいても、やらねばならないことはやらねばやらない。口を動かしてる暇なんてないさ」

「なんだか、きぬさんらしいですね」

「そうかな、紗智さん?」

「はい」

「ともあれ、君たちのおかげで無事当日を迎えることが出来た。本当に感謝しているよ。今日は存分に楽しでくれ」

「はい、ありがとうございます、会長」

「私はまだやることがある。それではな」

「頑張ってください」

会長は足早にだが、余裕のある立ち振る舞いで去っていった。

「さ、わたしたちも行きましょ、筒六」

「そうだね。それでは先輩方、もしよろしかったら、うちのクラスでやるお化け屋敷にいらしてください」

「おう、暇があれば立ち寄ってみるわ」

「そ、そうだね、た、楽しみだな~」

「どんなものか、ワクワクです」

「わたしはいないと思うけど、よろしくね~」

「ペコリ」

鈴下と仲野も自分のクラスに向かって行った。仲野よ、お辞儀してないくせに言葉だけ発するのはどうかと思うぞ。

「あたしたちも教室行こうよ」

「はい」

「ああ」


「今日は御守学園祭だ。楽しむのはけっこうだが、ハメを外しすぎて問題を起こさないように。後は臨時担当役員やクラスの出し物の当番を忘れずに自分の役割はきちんとこなしつつ、楽しむように。いいか、ただのイベント事と思わず、これも社会勉強の一環だということを忘れないこと。時間まで教室で待機。以上」

築島先生は言うべきことを終え、教室から出て行った。

「9時になったら、学園祭の始まりだよ」

「後20分程度。ワクワクとドキドキです」

「開始とともに外部の人も来るからな。今年も戦争が始まるぞ」

「な、なにか争いごとが起きるのですか!?」

「当たってるような、外れてるような」

「パンフレットにフリーマーケットゾーンってあったろ?」

「はい、それは見ました」

「ここは生徒から集めたものや、保護者から集めたもの、御守町の人から集めたものなんかを安くで売ってるんだよ」

「そうそう。このエリアだけ町内会に貸し切っていて、毎年フリーマーケットを開いてるんだ」

「それと戦争と何の関係が?」

「この町のおばちゃんたちがこぞってなにかないかと集結するんだ。なにせ値段が値段だから、来客数も半端じゃない」

「去年もすごかったよね」

「これ目当てで来る人もいるぐらいだからな」

「なんだか、この学園祭は色々とすごそうです」

「食堂もおばちゃんたちがいつもよりさらに安くで売ってるから、それ目当てで来る人なんかもいるよ」

「なんか言葉にするとこの学園祭って、大々的にやってるんだな」

「前いた学園とは大違いです」

「じゃあ、今日は目一杯楽しまないとな」

「あ、でも私は気にしなくていいので、お二人で回ってください」

「どうしてだよ?」

「実は家の者が来訪するらしいので、案内をしようかと」

あ、あのパワフル親父が来るのか。

「そっか、三原もいれば楽しいと思ったんだけどな」

「すみません」

「気にしないで、麻衣ちゃん。お家の人にこの学園の良さをアピールしておいてね」

「はい、それはもちろんです」

「!?」

学園中に校内放送の合図が鳴り響く。

「みなさん、おはようございます。生徒会長の小谷きぬです」

開始5分前。会長の放送が校内中に流れる。

「今日は御守学園祭です。身に余る行動を起こさず、しかし、精一杯楽しんでください。今日この日を無事に迎えられたのも、みなさんの力あってのことと思います」

「会長……」

「このような大きなことを成すには、1人の力では限界があります。今、私はこうして話していますが、私が行ったことは小さなことに過ぎません。この学園生全員の力あったからこそ、この学園祭は出来上がったと理解してます。今日の主役はここで喋っている私ではなく、みなさんです。なので、今日は多いに楽しみ、盛大に盛り上げて行きましょう。これより、御守学園祭の開催を宣言いたします。以上、生徒会代表の小谷きぬでした。ありがとうございました」

時間はジャスト9時。御守学園祭の始まりだ。

「それでは、お二人とも学園祭を楽しんでくださいね」

「うん、麻衣ちゃんも家族の人によろしくね」

「またな」

三原は一礼し、教室を出て行った。クラスの連中もぞろぞろと教室から出ていき、出し物当番の数人だけが残った。俺と紗智と三原はパズル作成を行ったため、当番は免除されている。学園祭を心ゆくまで楽しめるご身分なのだ。

「さーて、誠ちゃん! あたしたちも行くよ!」

「おお、なんか気合充分だな」

「当たり前だよ! ほらほら、早く!」

「わかったって! ちゃんと来るから、引っ張るなよ」

「えへへ、やーだ」

やーだじゃねえよ、まったく。悪い気はしないけどさ。

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