第13章 エッジ(35)

 

 男たちは優丸を妖術使いと思い、怖ろしさのあまり、聞かれたことすべてを話した。

 

 時間のない優丸の問いは直截的で、言いよどむとライトを瞳に当てて脅した。

 

 知りたいことがすべて分かった時点で、優丸は彼らに錠剤を渡し、飲むように迫った。

 

 彼らは呑み込み、すぐにその場に崩れ落ちた。優丸は眠った彼らを草叢に引っ張り、大木に括りつけた。もちろん、猿轡をかまして。生かしておくのは危険だが、それでも無駄に血を見たくなかった。

 

 まる1日前に、同じ作業をやったことを思い出す。あのときは、まさか現代に帰れなくなるなんて想像もしていなかった。1日前に戻りたい、と優丸は思った。

 

 しかし悲しんでいるひまなどない。三成一行は武佐宿で東軍の残党に囲まれているのだ。至急向かわなければならない。

 

 走り、今斃した男たちが乗ってきた馬を繋いでいるところまで行く。最も活きがよさそうな1頭を選び、跨って横腹を思い切り蹴った。馬は街道を駆けだした。

 

 ―― 自分が間にあったとして、でも、どうなるというのだろう?

 

 優丸は馬の背にしがみつきながら、憂慮した。さっきはたったの8人が相手だったので、子供だましの戦法で片が付いた。しかし数百といる相手を、ひとりで捌けるはずもない。銃も爆弾もないのだ。飛び道具がなければ、多勢につぶされてしまう。どうすれば……。

 

 優丸が武佐に乗り込もうとするとき、礼韻の部屋の障子が再び開かれた。

 

「すまぬ、何度も」

 

 深く詫びながら、大男が入ってくる。島左近だ。

 

「どうしまし……」

 

 言いかけた礼韻の腕を押さえて、起き上がった涼香が代わりに言った。

 

「胸騒ぎが収まらないのでは?」

 

 礼韻の斜め後ろを、左近が睨みつけた。

 

 しかしそれもわずかの時間だった。すぐに表情を緩めた。

 

「見かけは可憐なおなごだが」

 

 礼韻に顔を向ける。

 

「おぬしの連れだけあって、やはりタダ者ではないようだな」

 

「ということは、胸騒ぎが?」

 

 礼韻が問う。

 

「あぁ。ついさっき、強まった」

 

 何かを感じたのだな。礼韻はそう思った。こういう異常なカンを持ち合わせているから、この時代を勝ち上がってこられたのだ。

 

「まさか、追おうと?」

 

 礼韻が尋ねる。

 

「気持ちは、向いている。しかし……」

 

「しかし?」

 

「うん。不思議と、おぬしの考えを聞いてからと思ってな」

 

 その言葉に、礼韻は左近を見つめた。

 

 ―― 単に止めたらいいのだろうか?

 

 礼韻は即答できず、口を強く結んだ。島左近ほどの人物の行動を決定する言葉は、重かった。

 

「どうだ? 行っていいものか、それともとどまるべきか?」

 

 左近が礼韻に、身を乗り出した。

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