第13章 エッジ(34)
人の気配を感じた瞬間、優丸は馬から飛び降りた。
転がりながら草叢に入り込む。馬の倒れた音が鈍く響く。あのまま漫然と乗っていたら、優丸自身も撃たれていた。
息を殺して気配を探る。先ほどと同じだ。倒れた馬が苦しがって足掻く音しか聞こえない。同じ集団ではないか。やり口が似ていた。
優丸の背には、現代から持ってきた7つ道具が収まっている。ただそれらは、武器ではない。この時代に上手く使えば武器となり得る物。その程度にすぎない。
夜目に慣れた状態で、彼ら道を塞ぐ連中をはっきりと見た。なかなか人数が多い。この連中が武佐を本拠として、三成たちがそこで足止めをされているのは間違いないだろう。
だからここは迂回しては意味がない。まずこの連中を斃すこと。優丸は覚悟を決めた。
鉄砲は持っていないだろう。あれば馬に撃ち込んでいたはずだ。おそらくは弓矢だ。それも、多量ではない。闇の中では、飛び道具はさほどの威力を発揮しないのだ。多勢に向かって撃つのであればそれなりの効果を得られるが、限定した相手にではむずかしい。むしろヘタに使うと同士討ちの怖れがある。だから、多くは剣か槍だろう。ようは、手に持って使用する武器ということだ。
優丸は彼らの立っているだろう位置に発煙筒を投げた。火の気にどよめきが起こる。
彼らの姿を、優丸は見た。忍びの姿ではない。武士だ。ならば超人的な力も、何をしでかしてくるか分からない攻めの手も、怖れなくて済む。優丸はまず、自分が潜んでいる方に向かって走ってくる武士の腿に向かって、唯一現代から持ち込んだ1本の刀を振った。
短刀だが、的確に左足を深く割いた。男は悲鳴を上げて転がる。優丸は草叢から飛び出し、もう一人近くにいる男を刺した。
すぐさま刀を抜いて草叢に転がり込む。ほんの瞬きの間。誰もが発煙筒に目が行っていたので、2人の男の惨状は意味が分からない。優丸は草を分けて位置を変える。どよめきが草をかき分ける音を消してくれている。
別のところから道に飛び出し、武士のうしろから背を突く。心臓の裏側だ。気配に気づいた横の男の顔を切りつける。切りつける前に、周囲に目つぶしの砂を撒いた。優丸への攻めの動きが大きく遅れた。
また草叢に逃げ込む。まだ斃したのは4人。確認したところ、半分の人数だ。
砂に目を痛がっている男の前に飛び出し、胸を刺す。あと3人。姿を現したことで、やつらがギョッとしている。火の気に、この身のこなし。タダ者ではないと怖れているのだ。
「瞬時に5人も斃され、まだ戦えると思っているのか?」
やつらの恐怖心を煽るよう、言葉をぶつける。言葉は返ってこない。
「武佐の連中か? 誰が上に立っている? 黒田勢か?」
すっぱりと全員斃して向かう方が安全だが、情報も欲しかった。それで、危険を承知で質問を投げた。
「答えんと、捕らえて吐かせるぞ。地獄の苦しみと共に」
言いながら、ペンライトをチカチカと光らせて円を描いた。妖術に見せかけるように。
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