第13章 エッジ(33)
島左近が部屋を去り、礼韻は大きくため息をついた。
ふつうに話していても、大きな圧力を感じる。そんな男なのだ。
涼香を見ると、同じように心底ホッとしたような表情を浮かべている。灯りの乏しいこの時代の部屋の中だが、礼韻は不思議と涼香の顔がはっきり見える。どういうわけか、涼香の周りがポッと煌めくのだ。
礼韻はどうしても優丸が気になった。左近と涼香が、夢で優丸を見たと言った。それも左近は戦う場面を、そして涼香は内容は話さなかったが、なにか窮地に陥る場面を。
優丸の能力はいささかも心配していない。しかしそれは個の能力についてだ。圧倒的多数の武力の前には、個の能力など発揮することなくつぶされてしまう。
また、左近の行動が心配だった。自分が心配しているくらいだから、と礼韻は思う。左近など、三成を思って居ても立ってもいられないだろうと。
しかし万全でない左近が駆け付けたところでどうにもならない。犬死にの率が高い。左近ほど明晰な男なら承知だろうが、それでも向かってしまう怖れがあった。
仮に石田軍から三成がいなくなったとしても、左近がいればなんとかなる。そんなふうに思わせる雰囲気を、左近は持っていた。むしろ左近がいなくなったら、石田軍は三成がいても崩壊してしまうのではないか。
―― 島左近、間違っても向かうなよ。
乏しい灯りの火の元で、礼韻は思った。
同じ時刻、優丸は盗んだ馬で中山道をひた走っていた。
すでに愛知川宿は越えている。武佐宿に近い。三成一行に追いつくには、まだまだ走らなければならない。
朝に発った彼らが、もしかしたらどこかで宿を取っているということは考えられる。しかし100名の供がいれば、寝静まった時といえど気配は出る。これまでの宿場で、その気配はなかった。
危険な武佐宿で泊るとは考えられない。その次の守山宿だろう。優丸はそう見立てた。
深い闇だが火の気は持っていない。優丸は夜目が利くのだ。
まもなく武佐宿。優丸は馬の速度を落として蹄の音を小さくし、そして目を見開く。反石田の地に入っていくのだ。細心の注意を払わねばならない。
先ほどは矢で馬を斃された。三成一行がこの中山道で狙われているのは、あの出来事でほど確実といってよかった。あの矢を放った連中が武佐宿の者であれば、当然三成一行の追ってをやり損ねたと報告が入っているだろう。であれば、宿の手前で待ち伏せするはずだった。
先が、ほのかに明るく映る。武佐のようだ。先を急ごうとした瞬間、前に数人の男が立ちふさがった。
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