第178話 おくりものを貴方に(2)S☆4

 メルメルの一言で、どれほど私の胸は軽くなっただろう。

 悲しくて痛いくらいだった私の胸は、深く刺さった棘を抜かれたようだった。

 次第に痛みが治まっていき、私はどこか心の傷跡が塞がっていくような余韻に浸る。


 そして、いつしか不安ではなく純粋な興味が湧いてきて、再びメルメルに訊ねた。


「ねぇ、メルメル……死んじゃうと、どうなるの?」


 だが、メルメルは私の髪を撫でながら――


「わからないわ……」


 ――まるで、それが正解であるかのように不明だと告げる。

 メルメルの優し気な眼差しとは裏腹な回答。

 加えて、メルメルにさえわからないことがあるのだという事実は、私の心をざわつかせた。


「……私、やっぱり怖いよ」


 しかし。


「そうね……あれは、簡単に怖くなくなるものじゃないもんね」


 同時に、死に対してわからないというメルメルが、何故そんなにも穏やかでいられるのか。

 そんな疑問が再び迫った不安から私を守る。


「ねぇ、メルメル?」

「なに?」


「……メルメルは、死ぬの怖くない?」

「……正直に言うなら、怖くないことはないの」


「そうなの?」

「ええ……けど、サクラよりは平気かな」


 やわらかに微笑むメルメルの表情には、嘘がなかった。

 私はメルメルの胸に額を押し付けながら、ぽつりと彼女にしか聞こえない声で訊ねる。


「メルメル……どうしたら、死ぬのが怖くなくなるのかな?」


 すると、メルメルは私の両肩に手を置き、一度私達の体を離してから「うーん……そうね」なんて口にした後、そっと私のおでこに唇を触れさせた。


「死ぬのが怖くなくなる方法は、たくさんあるわ」

「それって、魔導?」

「いいえ。魔導じゃないの」


 メルメルの唇が触れた額に手で触れてみながら訊ねると、彼女はやわらかに笑いながら否定する。


「……けど、そうね。おまじない、みたいなものかな?」

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