第177話 おくりものを貴方に S☆5
どれほど、メルメルに抱かれていただろう?
聞こえてくるメルメルの鼓動にだけ耳を貸し、私は次第に落ち着きを取り戻し始めていた。
「どう? 少しは落ち着いた?」
「うん……少し」
でも、落ち着くというのは決して問題が解決するということではない。
私はメルメルを強く抱きしめながら、一つ一つ浮かんで来る不安や疑問と改めて対面する。
けど、一人で向き合ってみても……問題が好転することはなかった。
「……ねぇ、メルメル?」
「……なに、サクラ」
「……死ぬと、どうなるの?」
声となって出た私の疑問を聞くと、メルメルは困ったような顔をする。
私は、メルメルが答えを聞かせてくれることを期待しながら、心の中で泥のように溜まっていた想いを吐き出した。
「さっき……私ね、敵の兵隊を殺したの。そうしたら、血が……たくさん出て。それが、すごくあたたかくて……その時ね、すごく胸の中がざわざわしたの。私、とっても悪いことをしたんじゃないかって、敵だなんて簡単な言葉や、戦争だからなんてこと、とても言い訳にならないんじゃないかって思ったの……でもね――」
私は再び震え出す両の手にぐっと力を込めて、必死になって言葉を紡ぐ。
色んなことで頭の中がぐちゃぐちゃだった。
だから、今はただ……メルメルに私の感じたことを全部……全部聞いていてほしかった。
自分がした行いも含めて……全部を。
「――私、また目の前に敵が現れた時……また武器を振るってた……」
その時目にした光景が、即座に頭の中で蘇った。
私は、一人の兵を殺した直後……間髪入れずに現れた敵兵を、殺していた。
アイリーンさんが話してくれた命の優先順位なんてちらりとも思い出さなかった。
人を殺めた罪悪感なんて、初めからなかったみたいにどこかにいっていた。
ただ、あの時に私の心を支配したもの……それは、死にたくないという想いだった。
「私……悪いこかなぁっ」
人を殺しておいて、死んだ人を傍で見ておいて……申し訳ないとも、かわいそうとも思えなかった。
ただただ、あんな風に終わりたくない。
そんな一心で武器を手に取っていた。
気付けば一人、二人と手にかけた命の数は増えていき……三人目以降は覚えてもいない。
そして、戦闘が終結した後……。
私はタケと共に入城を果たし、ほっと安堵した自分に、色んな意味でショックをうけた。
「私、今……死んじゃうのが、すごく怖いっ」
いつの間にか声まで震え……気付けば、私は両の目からボロボロと涙をこぼしている。
息苦しくて、呼吸がつらくて……思うように言葉が声になって続かなかった。
メルメルはそんな私を、息が止まりそうなくらいにきつく抱きしめ――
「悪い子なんかじゃないわよっ!」
――耳が破けちゃうんじゃないかと思うくらい、大きな声でそう伝えてくれた。
「死ぬのが怖いだなんて。すごく当り前のことなんだからっ」
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