第167話 ほんのひと時。寝具の上で(2)S☆

「そうだな。そうかもしれない。でもさ、メルクオーテ。俺はこれまで、一人で決めてばかりだった。そのせいで余計に……色んなことがこじれたように思う。サクラのことも、もっと君に相談すれば、別の糸口が見つかっていたかもしれないだろ?」


 申し訳ないと思いながら口にする俺に、メルクオーテは優しく𠮟るように言う。


「そんな『たられば』の話は、アタシ嫌いよ?」

「だと思った」


 そうやって軽口を叩いてみせる俺に、彼女は「それで?」と言葉の先を促した。


「ああ……つまりさ、メルクオーテ。俺は今、色んな人に助けてもらってる。君やサクラ。ヤサウェイ……そして、認めたくないが、あのヤシャルリアにさえも」

「最後の人は条件付きの助力だけどね」


「だな。でも、そうやって俺は考える時間と機会をもらえた。なら、これ以上間違った選択をする訳にはいかない……君には、俺がヤサウェイの言葉に従っているように見えるのかもしれないけどさ。でも……それでも俺は、俺の心は今――君とサクラだけは、どんな結末になっても守らなきゃいけないと思ってるんだ」


 胸の内を晒した俺に、メルクオーテは真剣な眼差しを向けた。


「……その言葉、信じていいのね?」


 彼女の瞳は、言葉以上に俺に語ってくる。

 決して裏切らないでと……。

 俺は、メルクオーテにハッキリと頷いた。


「ああ。誓うよ。俺はもう、君達を決して裏切らない」


 すると、強張っていたメルクオーテの表情は和らぎ――


「わかった。信じてあげる。そして、アタシも全力で協力してあげるわ。サクラとヒサカさん。二人ともを救うことに」


 ――彼女はにかっと歯を見せて笑った後、茶化すようにつぶやく。


「また、三人で工房へ戻りましょ。今度は、サンドイッチよりもおいしいものを作ってあげる。もちろん、有料でね」


 俺達はどちらからともなく笑い合い、その後、夜が明けるまでの間、再び浅い睡眠をとった。




 そして、夜は明ける。

 この日から、俺達の戦争は始まった。

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