サクラ初陣編

第158話 前夜 S☆3

 出立は明朝。

 日の出と共に馬を走らせ、私達は戦場へと向かうらしい。

 でも、この時の私はまだ『戦場』というものが何なのか少しもわかっていなかった。


 そう、戦場がどういう場所なのか、戦争がどういうものなのか、私はわかっていない。

 わからないから、不安が押し寄せてくる。


 寝具で横になっていた私は、既に寝息を立てるメルメルの隣で毛布をぎゅっと掴んだ。


「メルメル?」


 本当は起きているのではないか?

 そんな期待を込めながら彼女の名を呼ぶ。

 でも、メルメルから返事はない。

 私はもぞもぞと体を動かし、メルメルに寄り添った。


「……私が寝るまで、起きてるって言ったのに」


 ちょっとした甘え、そして八つ当たりのつもりで弱音を吐く。

 私はぎゅっとメルメルを抱きしめて、胸に顔を埋めた。

「んっ」と彼女の声が漏れ、とくん、とくんと鼓動が聞こえる。


「ちょっと前までは、起きててくれてたのに……」


 メルメルは私を寝かしつけている間に眠ってしまったのだ。


 きっと、疲れてたんだろうなぁ……。


 仕方がないと自分に言い聞かせ、私はしばらくメルメルの平たい胸に顔を埋めていた。

 けど、すぅっと深く呼吸した後、私はベッドから起き上がる。


「……タケ?」


 視界に入ったタケは背中を丸め、ソファで座りながら寝息を立てていた。


「…………皆、疲れてるよね」


 私はぽつりと呟き、物音を立てぬようにとベッドから降りる。

 まだ日は出ていない。

 私は肌寒さのある空気の中、簡単に服を羽織って部屋の外に出た。

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