第157話 ヤシャルリア達の世界(11)S☆2

 そして。


「ふふっ」


 メルクオーテの言動に感じるものがあったのは、俺だけではなかったらしい。


「なんだ。えらく大人しい女だと思っていたが、ずいぶんと大仰ではないか」


 好ましいと言わんばかりに、ヤシャルリアはメルクオーテに笑いかけた。


「貴様。メルクオーテと言ったな。良い。良いぞ。精々研鑽するといい。私も、自分と並ぶ程の魔導士が陣営に加わると言うのなら、喜ばしい限りだ」


 だが、愉快そうに頬を緩めるヤシャルリアに、メルクオーテは変わらず挑戦的な目を向けた。


「並ぶですって? 覚え間違えないで。アタシは、貴方を超えると言ったのよ」

「ふふ……そうだったな。いいだろう。その言葉、忘れるなよ? 私も確かに聞き、今この胸に刻んだ。必ず果たしてみせよ、メルクオーテ。必要ならば時間を作り、多少教鞭をとってやる」


「言ったわね」

「ああ。訂正はない。貴様の言葉は忘れぬし、望むことを教えてやる」


 その言葉を聞き、メルクオーテはにやりと笑った。


「必ず、後で伺うわ」


 と、女性陣の視線が熱く火花を散らす中、ヤサウェイが一つ咳ばらいを挿む。


「さて。では、そろそろ本題に移ろう」

「本題?」

「ああ。今までの話は、君達に現状を把握してもらうための前置きでしかない。タケ、君も忘れた訳じゃないだろう? ヤシャルリアは君達、そして僕に戦争をすることをお望みだ」


 ヤサウェイの口調は、話す内容にそぐわない軽快なものだった。

 まるで、ヤシャルリアの望みがこの場で歌うことであるかのように、明るく聞かせてみせる。

 しかし。


「重要なことだ。この場にいる誰もが、忘れたなんてことはあるまい?」


 声のトーンを少し落としたヤシャルリアの口調で、誰もが緊張感を取り戻す。


「では、僕から話してもよろしいですか、姫?」

「任せる。私ではまた、誰かを逆なでしてしまうかもしれんしな」


 その一瞬、どことなく重さを帯びていたヤシャルリアの口調がふわりと軽くなった。

 そして、ヤサウェイの表情も少し緩んだように見える。

 もしかして今、ヤシャルリアはヤサウェイに軽口を言ったのか?

 目の前で交わされた会話の内容に俺が驚く中、ヤサウェイはこちらへ向き直った。


「では、まず伝えておく。君達には僕とアイリーンの指揮下に入ってもらい、共に友軍の救援へと向かってもらう」

「救援? いつだ?」

「明日にでも」

「あ、明日ですってっ?」


 差し迫った出陣の時を知らされ、俺達の中で誰より早く反応したのはメルクオーテだった。

 そんな彼女の反応を楽しむかのように、ヤシャルリアが口元を歪める。


「まさか、急な話だなどと言って臆してくれるなよ? さあ、喜んでみせよ。我らがサクラ。黝輝石の初陣だ」


 地獄への手招くかのような、だがうやうやしさすら感じるヤシャルリアの言葉。

 彼女の発言に、この部屋にいる者の視線が全てサクラへと集まった。

 サクラは、俺とメルクオーテ……二人の顔を交互に見つめてからこくりと頷き――


「ええ。ヤシャルリアさん。主がそれを望まれるなら」


 ――彼女は、ヤシャルリアの命を承諾した。

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