最初から……彼は俺に言っていた-約束-
第142話 124回1日目〈18〉S★1
だが――
「君の言う通り、ヤシャルリアはハキとズグゥの仇だ。それはわかっている。だが、だからこそ僕は自分を捨てたんだ。ただの騎士を名乗り、ヤシャルリアへの恨みを腹の底にしまった」
――ヤサウェイとは対照的に、俺は喚くように叫んでしまう。
「だからっ、それがおかしいじゃないかっ! どうして恨みを腹の底にしまえた! そうする必要があったとでも言うのか!」
とても、言葉を抑えられなかった。
しかし、そんな俺を見てなお、ヤサウェイの態度は揺るがなかった。
「ああ、そうする必要があった」
彼は俺をじっと見据え、目を逸らさなかった。
「そうしないと、僕は――僕から君達を奪った者の守りたいものを、守れると思わなかった」
「……ヤシャルリアの、守りたいもの?」
「そうだ……」
ヤサウェイは俺に静かに頷き、その後、また質問を重ねた。
けれど……。
「タケ。君は僕に何をしていたかと訊いたが……僕が、一体何をしていたと思う?」
それはまるで、答えてもらうことを望まないような。
「僕が、何を見てきたと思う?」
そう、まるで――
「君と別れてから、僕が何人救えなかったと思う?」
――罪の告白のような問いかけだった。
「何があったんだ……ヤサウェイ」
つい口を衝いて出た言葉に、はじめてヤサウェイが俺から目線を外す。
彼は虚空を見つめながら、記憶の中を思い出すように語った。
「君達と別れ、ヤシャルリアにこの世界に連れてこられたあの日。まず最初に、僕の目の前で三人殺された。一人の兵と、二人の親子だった。兵は親子を守るために戦って殺され。親は子を庇って殺され。残った子は独り、親の亡骸にすがり泣き出したところで首をはねられた……気付けば僕は剣を取っていた。片腕でサーベルを振り、足を引きずりながらヤシャルリアの兵に混ざって叫んだ。『走れ』『逃げろ』と……」
落ち着きを取り戻した筈のヤサウェイの声は震え、心の内から怒りが滲み出す。
「僕は、どうしても見捨てられなかった」
彼は顔を歪め、悲しみと無力感に打ちのめされたような顔をしていた……。
そんな顔を見せられて……俺はいつの間にか、馬鹿みたいに声を張り上げるのをやめていた。
「それが、お前があそこにいた理由か?」
再び、ヤサウェイは俺の目を真っ直ぐに見据える。
「そうだ」
頷き、そう返答した彼の瞳の奥底には……計り知れない疲労が隠れていた。
とても、直視できない程に……。
「ヤサウェイ……お前は、どこまで――誰のためにまで戦っているんだっ」
なのに……。
「君だって、あの場に入れば剣を取らずにはいられなかったさ」
彼は、当たり前のことしかしていないように、薄く、細い笑みで口元を染めた。
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