第141話 124回1日目〈17〉S★1

 刹那、頭が真っ白になった。

 思考が止まり、自分の全てが石にでもなった気分だった。

 だが……すぐに腹の底から胃が爛れるような熱い気持ちが膨れ上がった。


「それは、俺の考えが……俺の選択が……間違いだったと?」


 ひどく、自分が孤独に思えた。


「それ以外、何があるんだっ!」


 ヤサウェイの激昂が、脳を揺さぶる。

 次の瞬間、ぶつりと……俺の中で何かが切れた。


「じゃあ、俺は! どうすればよかったって言うんだ!」


 思考が脳を介さず、そのまま口から流れ出る。

 しかし。


「どうすれば……よかっただって?」


 流れ出た感情を――


「君はまだ、何もしていないだろうっ」


 ――彼は即座に否定した。


「なに?」


 俺は……意味がわからなかった。


「逆に聞こう。君が、一体これまで何をした?」


 ヤサウェイが何を言っているのか、意味がわからなかった。


「……何を、言ってる」

「僕は、君が一体これまで何をしてきたのとかと訊いている!」


 それは、彼と別れてからの……俺の全てへの否定だった。


「お前は俺を……そこまで、否定するのか?」


 声を口に出しながら、舌の感覚がなくなってきていた。


「俺は……俺はここまで来ただろうっ! ヒサカを救う為に! ヒサカとの約束と、お前との誓いを果たすために――俺は、サクラを連れてここまで来たんだっ!」


「ここまで来た? サクラを連れて?」


 直後、ギリッと歯を潰すような音を、ヤサウェイは噛み鳴らした。


「違うっ! 君は、ただ諦めただけだ!」


「そんな……そんなはずがあるかっ!」


「いや、そうだ! 君は諦めた! 君はヒサカを救う為に、サクラの命を諦めた! なのにっ、サクラを連れてきただと? サクラがここにいるのは彼女が自分で決めたからだ! 彼女がなしたことだ! それをっ、君がうぬぼれるな!」


「なっ――お、俺はっ――」


 彼の言葉は、ずぐりと俺の肺腑に突き刺さっていった。

 心の奥底をも貫き、血も、肉も、精神も……何もかもをえぐられる思いだった。

 返す言葉が、何もなかった。


 けれど――


「だったら……お前はどうなんだ……」


 ――返す言葉のない俺は、気付けば口に出していた。


「お前はこんな場所で! ヤシャルリアの元で、そんな鎧を着て――何をしていた! あいつは、仲間の仇だろうっ!」


 ヤサウェイを、責めるような言葉を……。

 しかし、彼は動じない。

 むしろ、それを聞かれることを待ち望んでいたかのように、堂々と語り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る