第129話 124回1日目〈10〉S★3

赤鉄鉱せきてっこう……お前はどう思う?」


 赤鉄鉱……それが、黒騎士を指す呼び名らしい。


「どう……とは?」


 黒騎士が問い返すと、ヤシャルリアは「わからぬお前ではあるまいに」とこぼした後、この場の皆に聞かせるために声を張り上げた。 


「皆も聞いただろう。この場にいるサクラという娘は、私を敵視している。にもかかわらず、こやつは私に自分を手駒にしろと言うのだ。そう、この場を切り抜けたい一心でな」


 だが、多くの騎士に聞かせても、この場で奴相手に言葉を返せる者は少ないらしい。

 他の騎士達が発言をためらう中、再び黒騎士が声を発した。


「だが、姫様。貴方はその者達を手駒にしたいとお思いだ」


 しかし――。


「そう、思いたいのか?」


 答えを求めていた筈のヤシャルリアは、からかうような口調で黒騎士に返答した。

 直後、俺を見下ろしていた顔鎧が、ヤシャルリアへと向けられる。


「貴方のお考えは違うところにあると?」

「そうは言っていない」

「まさか――私に、彼らを殺せとでも?」


 この時、どこか無感情に聞こえていた黒騎士の声に、俺は初めて感情の起伏を感じた。

 けれどそれは、騎士が主君に抱くには、あまりに相応しくない類のものだ。

 だが……今この瞬間―—。

 彼は、確かにヤシャルリアに対して敵意にも似た怒りを抱いている。

 俺には、そうとしか思えなかった。


 再び、場の空気がピリッと張り詰めていくのを肌で感じる。

 そんな中、ヤシャルリアは黒騎士に対し、猛獣でもなだめるような声を出した。


「そう焦れてくれるな、赤鉄鉱。私はお前の心根を聴きたいと言っているのだ」

「心根?」

「ああ。お前は、この者達をどうしたい? いや、この娘。どうしてやればいいと思っている?」


 ヤシャルリアが訊ねた途端、俺の喉元に突き付けられた黒剣、その切っ先が揺れ動く。


 それから一呼吸の後……黒騎士は取り戻した無感動な声で訊ねた。


「まさか……私に、この者達の処遇を一任するおつもりで?」


 すると、ヤシャルリアは笑いながら「不服か?」と言って黒騎士に訊ね返す。

 しかし、その笑みは頬の内に毒を潜ませるような、嫌な思惑を連想させるものだった。

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