第128話 124回1日目〈9〉S★3
「お前は、自分のことを、私の敵だと言うのだな?」
「はい」
「敵ならば、お前は――お前達はこの場で殺されてもおかしくはない。そうは思わないか? なのに何故、お前は私の敵であることを望む? 敵であろうとするのだ?」
奴の問いかけは、表面通りに聞けば『今もお前達の命は私の気持ち一つだ。口の利き方と態度には気をつけろ』という意味合いで受け取ることもできただろう。
しかし、俺を含め、この場にいる誰もがヤシャルリアの言葉をそんな風には捉えなかった。
何故なら、奴の態度がまるで、なぞなぞを出題する少女のように見えたからだ。
ヤシャルリアは今、サクラの返答を得ることを楽しみにしている。
まるで、彼女が自身の望む答えを解答できるか試すように――。
あの魔女は、あろうことか親しみをもってサクラに訊ねているのだ。
対して、サクラはヤシャルリアのように、この状況を楽しんでいる様子はなかった。
彼女はこくりと息を呑むと、真っ直ぐに奴を見据えてから口を開く。
その横顔はまるで、細いロープの上を身一つで渡っているかのように緊張で張り詰めていた。
なのに――
「……確かに、本来ならば殺されてしかるべきかもしれない……けど」
――サクラの声もまた、ヤシャルリアと同様に親しみが滲んでいる。
「今回は、貴方が相手ですから」
要約された答えにヤシャルリアが首を傾げると、サクラは続けて言葉を紡いだ。
「貴方が――敵でない私達に価値を見出してくれることは、難しいと思ったので。貴方なら、自分の敵にすらなれない私達なんて、手駒にすらしたくないんじゃないですか?」
すると、奴の顔は一瞬の驚きを浮かべた後、口元を充足感で緩めていく。
「ふふ……サクラ。異界の技術を取り入れた屍か。あの男。空の体に仮初の魂を入れるなど、ずいぶん惨い真似をと思ったが……存外、前の者よりよほど器量が良いのではないか?」
ヤシャルリアは、そう独り言をこぼすと、不意に目線をサクラから黒騎士へと移した。
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