第120話 124回1日目〈4〉S★4

 彼女は凍えたように震えながら俺の腕を握りしめる。


「うそよ……そんなっ」


 だが、それは迫りくる敵に恐怖し、焦った故の震えではない。

 彼女は、そんなものに恐怖するような女性ではなかった。


 しかし――


「そんなはずないっ!」


 ――彼女は、不安を紛らわせるように叫ぶ。

 そこへ、一人の騎士が、剣を振り上げて迫った。


「メルクオーテッ!」


 直後、メルクオーテは俺から手を離し、握りしめたナイフの切っ先を騎士へと突き出す。


 そして――


「炎よ逆巻けっ」


 ――彼女は銃口を向けるように騎士をにらみ――


「エルフィアァッ!」


 ――銃弾を放つがごとく、呪文を唱えた。


 だが、詠唱の後に続くべき事象が……何も起こらないっ。


「そ、んなっ」


 メルクオーテは喪失感に溢れる言葉をこぼし、ぴたりと静止する。

 まるで、時が止まったかのように……。


 この時、彼女は相手の騎士にとって、ただの大きな的でしかなかった。

 振り下ろされる斬撃に対して、メルクオーテは全くの無防備だ。


 しかし――


「何をやってるっ!」


 ――たかだか刃のついた細い鉄塊ごときに、彼女への接触を許していいはずがない。

 刀身が叩き込まれる直前、鉄杖は騎士の剣撃を迎え撃った。


「ぐっ」

「うおっ」


 互いの武器が重なり合った瞬間、俺と騎士の口から声が漏れる。

 斬撃を受け止め、訪れる腕の痺れっ。

 だが、それは刹那的なものだ。

 俺は鉄杖を握り直し、力任せに薙ぎ返した!


 すると、剣は騎士の手を離れ、天井へと放り出される。

 敵が丸腰になったその好機は、見逃していいものではなかった!

 すかさず手首を返し、俺は騎士の横っ腹を打ちにかかるっ。


「らあっ!」

「ぐはっ!」


 鉄杖がぶち当たると騎士は短く苦悶し、胴鎧にヒビを入れながら体をふっ飛ばしていった。

 しかし、それは勝利ではない。

 一人の騎士を倒して得られた一瞬の安堵を繋ぎ目に、息つく間もなく次の騎士が斬りかかって来る!


 新たな剣撃を受けながら、俺は視界の端にメルクオーテを見た。

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