彼女を後悔しないために。私を後悔されないために。-自責-
第91話 123回11日目S★2
一文無しの居候で、ベッドに寝転がっている昼下がりというのは……この上なく情けない。
元々、やってもやらなくても大差ない仕事しか任されていなかったが、実際にやらなくても良いと言われると、自身の存在価値が失われたようで複雑だった。
『サクラだっているし、解析が終わればあんたはあたしに十分貸を返せるわ。情報でね? だから、今は休みなさい』
そう、メルクオーテに言われたのが今朝のことだ。
だが――
言葉を選ぶように慎重に開かれた彼女の口元。
俺への負担を取り除こうという気遣いが感じられた、メルクオーテの振る舞い。
――彼女が嘘を言ってると、俺が確信するのは難しいことではなかった。
それでも、俺がメルクオーテの気遣いに甘え……従ってしまったのは、この気持ちのやり場を探したかったからかもしれない。
「呪いでもなく。価値もない。ただの、迷惑な偶然の産物か……」
天井を見上げ、ふと独り言がこぼれた。
静かな寝室の虚空へと、目に見えない声が解けていく……。
結局、俺の転移体質は彼女が想像していたようなものではなかった。
元が大規模な魔導術式だったのだから、その時点でメルクオーテが目を付けた『低コストでの転移』と矛盾する。
さらに、一回ごとの転移で必要になる魔力も並みだったと言うことだ。
むしろ、食事や経口という手段で魔力を摂取する分、非効率的であり、マイナスな面が大きいだろう。
成り立ちはただの偶然で、紐解いてみれば魔導的にも価値のないものだった。
……そんな、価値のない偶然のせいで、俺は仲間を失ったのだ。
さらに皮肉にも、俺はその直後に本来の目的であった元の世界へ戻る方法にたどり着いている。
今、自分の中には、後悔ですらない感情がくすぶっていた。
なぜ、こうならなかったんだろうという想いだ。
もし、122回目に俺がメルクオーテに出会っていれば……。
俺は、彼女に転移体質のことを訊かれ、解析に協力しただろう。
その結果、転移体質のしょうもない事実にたどり着く。
きっと、メルクオーテは損をしたと怒り、俺に気遣うこともない。
俺は彼女に頼み込み、雑用を与えられ……数か月、あるいは数年かかって対価を払い、元の世界に戻る。
ヒサカや、ヤサウェイ達に……無論、サクラに出会うこともなく。
しかし……現実は、そうならなかったのだ。
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