第86話 123回10日目〈16〉S★1
「ねぇ、メルメル。それって召喚術式なんじゃないの?」
サクラからそんな言葉が飛んでくると思ってもいなかったのだろう。
ふいのことでメルクオーテは口を閉ざし、瞬間的な沈黙が生まれる。
しかし――
「……え? サクラ? なに? どういうこと?」
――困惑したような顔をしてから、メルクオーテはサクラに訊ねた。
まるで彼女の意図。
自らとは違う意見を把握し、取り入れようとするかのような姿勢だった。
サクラも、おそらくそんなメルクオーテに何か察したのだろう。
彼女は「だってね」と頭につけて口を開いた。
「タケははじめ、元いた世界から別の世界へ飛んできたんでしょう? それで、次は一度目に飛ばされた世界からまた別の世界へ。そしてまた、二度目の世界から別の世界へ。それって、タケが違う世界に転移するたび、何度も別の世界へ呼ばれてるってことじゃないの?」
サクラは正否を問うように、メルクオーテに仮定を答えていく。
彼女が考えを口にする度、困惑が勝っていたメルクオーテの表情が変化した。
「呼ばれてるってことは、召喚術式じゃない?」
だが、サクラの言っていることは穴だらけの理屈だ。
魔導に素人の俺にも、それはわかった。
けど――
「サクラ。おもしろい考え方だけど、たぶんそれは間違いよ。これが召喚の術式なら、一度目の召喚で術式は完了してるは……ず?」
――その穴だらけの理屈をヒントに、優秀な魔導士は何かに気付いたようだ。
……気付いたようなのだが。
「そうか。そうよ。そうだわ。完了されていないんだ。でも、未完全な形で術式が完成してしまったんだ。ありえない話じゃない。そうだわ、きっと当たってる。たぶん、タケ一人じゃないんだ。だからあんなにも複雑で、細かい文言が並んでる。後進的なだけじゃない。あれは大規模な召喚術式だった……?」
メルクオーテは顔をうつむけ、一人ぶつくさと呟く。
「め、メルメル?」
「おい、大丈夫か?」
しかし、俺とサクラが顔を覗き込んだ途端、彼女はいきなりサクラに抱き着いた!
「すごいわサクラ! さすがアタシが手掛けたプラチナドールね!」
メルクオーテは心底嬉しそうな声をあげた後、すっと立ち上がる。
彼女は要領を得ない俺達を置いて、急いで工房へと走り出した!
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