第64話 123回3日目〈3〉S★1

 ヒサカの姿をしたは脳天を押さえ、ぽろぽろと大粒の涙を流し始める。


「うっ、うぅ……い、いたぃっ」


 俺は、そんな彼女の姿を視界の端に捕らえながら、怒り狂うメルクオーテを羽交い締めにした。


「失礼な子! そこに直りなさいっ! きちんとしつけて主従関係というものをそのっ、その頭に叩き込んでやるから!」

「おい! 落ち着け!」

「離してよ! あれは侮辱だわ! ひどい辱めよっ!」


 じたばたと暴れるメルクオーテは目尻に涙を溜め込み、今にもこぼれてしまいそうだ。


「あ、アダジが何しだって言うのよぉっ」


 ついにはメルクオーテの声に、ダミ声が混じり出した。

 よほどショックだったらしい……。

 そんな彼女の背をさすりつつ、俺はプラチナドールあの子に目を遣る。


「い、いたぃ。すごく、いたかったよぉ……」


 彼女はいたいいたいと言いながら涙を流し……なのに、その痛みがまるで嬉しいことであるかのように、笑っていた。

 その笑顔は、まぎれもなくヒサカであり……別人に、あの子の面影を重ねてしまうなんて程度の話では済まない。


「勘弁してくれ……」


 直後、俺はそう口を滑らせてしまい、その途端、自分に嫌気がさした。

 そして、を生み出してしまったことに刹那的な後悔を抱く。

 だが、これは仕方のないことなのだと、必死に自分へ言い聞かせた。


 ヒサカの姿をした彼女を、受け容れられるのかと、自身に問いかけながら……。


 しかし――

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