123回目の世界
転移-無一文-
第51話 123回1日目S★1
次に目が覚めた時、俺は見知らぬ天井を見つめていた。
屋根があることから、屋外ではないことはすぐにわかる。
それに……体のあちこちに傷の手当てをしてもらった形跡があった。
だが、鈍痛が残る体を起こし周りを見回すと、どうもここは医療機関ではないらしい。
俺が寝かされていた部屋は……一言で言うと本で溢れていた。
雑多に放置された大量の本が床一面を埋め尽くし、部屋のあちこちにも高く積まれた本がそびえ立っている。
それでいて四方の壁にも天井まで届く本棚が置かれ、中もぎっちりと本で埋め尽くされていた。
123回目の世界に抱いた最初の印象は本の虫だ。
気を失っている間に身ぐるみを剥がされていたり、雪山で体に雪を積もらせながら目覚めた過去と比べればこれ以上ない好スタートと言えるだろう。
しかし――
「ヒサカ……」
――その幸運を、俺はとても受け入れられる気分ではなかった。
部屋に備え付けられた窓から陽光が差し込んでいる。
朝か昼時であることを示すその光と、体中の痛みが俺に現実を突きつけている気がした。
ここに、ヒサカはいない。
俺にはもう、果たすべき約束も、戻る世界もないのだ。
そう思うと、とても惨めな気分になった。
だが、そんな時――
「良かった。気が付いたわね!」
――俺に明るい声色で話しかける、一人の少女が現れる。
数冊の本を胸に抱いて現れた彼女は、かけていた片眼鏡を上着の胸ポケットにしまい、愛想よく俺に笑いかけた。
その柔らかい少女の微笑みに、俺はついヒサカを重ねてしまう。
よくないことだと思った。
ひどく感傷的になっている。
「君が、手当てを?」
「ええ、そう! アタシがあなたを手当てしたわ!」
俺が訊ねると、少女は小さな胸を張り、自慢げに答えた。
「でも、気が付いてくれて本当に良かったわ――」
そしてまた、彼女は親し気に微笑みながら続けて口を開く。
「――これで、
それはもう、なんとも安堵した、かつ楽し気な笑みだった。
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