第32話 122回111日目〈20〉S★2
黒衣の神官はハキの傍で膝を着き、深々と頭を下げながら冷たくなった体に手で触れる。
彼女は数秒その体勢を維持すると立ち上がり、ズグゥの元へと足早に駆け寄った。
そうして甲斐甲斐しく動き回る黒衣の神官を、俺は無感動に目で追う。
だが、急にどさりと何かが地に落ちる音を聞き取り、彼女から視線を移した。
すると、俺の目には傷を負った片腕を抱えながら、その場にへたり込むヤサウェイの姿が映る。
彼は誰のものとも知らない墓石にもたれ、噛み殺した痛みを吐き捨てるように深く息を吐いた。
しかし、憔悴したその姿に、俺はかけるべき言葉が浮かばない。
俺もヤサウェイも、きっと頭の中が麻痺してしまっているんだろう。
いや、ヤサウェイの場合は俺なんかよりよほどひどい筈だ。
深手を負い、この短い時間で長く連れ添った仲間を失ったのだから……。
結局、俺はヤサウェイになんと声をかけて良いかわからず、逃げるように目を逸らしてしまった。
だが、月夜に照らされるこの墓地に、目の逃げ場となる場所などない。
大量のゾンビの死骸。
四肢を欠損してなお動く死人。
そして、ハキとズグゥの遺体……。
そんな中で、俺は今にも死を誘い込むように倒れるヒサカに再び視線を留めていた。
もう声を発することもなくなった彼女の消え入りそうな呼吸が、心を締めつけて離さない。
気付けば俺は、胸の内に浮かぶぐちゃぐちゃに混ざった感情にふたをして、ただただヒサカに安らぎが訪れる瞬間を待っていた。
黒衣の神官がハキとズグゥの元から戻って来たのは、そんな折だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます