第21話 122回111日目〈9〉S★1
戦闘直後だ。
ヒサカも張り詰めた状況から解放され、軽口の1つや2つ叩きたいのだろう。
俺はやれやれと思いながら「お前なぁ」と、彼女に乗ってやろうと思った。
その時だった。
ぬかるみを踏みしめるような、ぐちゃりという音が聞こえた。
瞬間的に、俺の中で緊張感が蘇る。
仕留め損なったゾンビがまだ残っていたのではないかと鉄棒を構え直した。
すると、俺とほぼ同時にヒサカも弓矢に手をかけ、直後に矢をつがえる。
彼女が弦を引き、音のした方向へと弓を構えると、他の3人も武器を手にし俺とヒサカの元へ駆け寄った。
「まだ、仕事は終わってなかったみたいだな」
その後、自嘲するように言ったヤサウェイに、皆が沈黙という形で肯定を返す。
俺達が武器を向ける先――そこには1匹のゾンビがいた。
だが、こいつ何かおかしい。
夕闇に染まる墓地で、じわじわと広がりゆく暗がりに目を凝らす中、ゾンビの全容が見えた時、俺は違和感を抱いた。
まるで鉛でも塗り込まれたような灰褐色の肌。
しかも、その体には傷も腐敗も見受けられない。
奴は死んで直ぐ、意図的にゾンビに仕立て上げられたような、自然発生したとは思えない程、綺麗な体をしていた。
「こいつ、なんかおかしいぞ」
胸の内にくすぶった思いをそのまま言葉にする。
仲間達も同様のものを感じていたらしく、皆が頷き、あるいは「そうだな」と返した。
ただ、一人を除いては。
「おいおい? 相手はたった1匹だ。必要以上に恐れる必要はねえだろう?」
にやりと不敵な笑みを浮かべ、ズグゥは俺達の前へと大きく一歩踏み出す。
「オレにやらせてくれ。討伐数がハキと一緒ってんじゃ、素直に喜べねえ」
彼は斧を構えると、煽るようにハキへと目線を送った。
その途端、ハキは呆れたように肩をすくめ「ご勝手に」と、武器を収める。
「つまらない意地」
「なんとでも言え」
そんな二人のいつものやり取りを前に、俺達は皆、抱いていたはずの違和感を忘れてしまった。
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