0.5ゲーム差

翌日は雨が上がり、絶好の野球日和となった。


もう球場の駐車場入り口には宇棚三兄弟はいない。


きっとまた現れるだろうが…





さて試合はエンペラーズの先発は廣澤、ハードパンチャーズは松村と発表した。


廣澤は東京ゴールデンズの育成選手からエンペラーズに無償トレードされ、登録支配下選手として契約した。



先の穴堀オーナーとの一件で獲得した金の卵だ。


ハードパンチャーズの先発、松村はベテランの域に差し掛かった18年目の選手だ。


ホームであるパンチャードームでは2勝を上げているが、ビジターではいまだ0勝だ。


つまりパンチャードームのカラクリで勝ち星を上げた投手という事だ。


しかし、ハードパンチャーズはビジターでの勝率は2割に満たない。


おまけにヤマオカによってカラクリが暴かれた為、何の細工も出来ない。


ビジターでのハードパンチャーズは高校野球レベルまたは、それ以下の実力なのだ。



そして試合が始まり、ハードパンチャーズナインは廣澤の投球に翻弄される。


反対にエンペラーズ打線は序盤で松村をマウンドから降ろし、早くも3番目のピッチャーを投入した。



古巣ハードパンチャーズ相手に大和は第1打席にライト線を破るツーベースヒットを放ち、第2打席は、右中間を深々と破るスリーベースヒット。


第3打席は、レフトスタンドに叩き込むツーランホームラン。


そして早くも4打席目を迎えた。


スコアは12対0、エンペラーズのワンサイドゲームとなった。


大和は初球を見送り、二球目は三塁側スタンドにファールを放った。


三球目は低めに外れるボール球を悠々と見送り、四球目の高めに浮いたスライダーを捕らえた。


打球はショートの頭上を越えるレフト前ヒット。


大和がサイクル安打を達成した。


大和がサイクル安打を達成するのはこれで二度目だ。


と言っても前回はパンチャードームで例のイカサマによるサイクル安打なので、実質的上これが初めてのサイクル安打となる。


「よかった、あのチームから抜け出て」


大和はつくづくそう思った。


ハードパンチャーズにいた頃は、ビジターでイヤな思いを散々してきた。


ビジターでは負けた記憶しかない。


その原因をよく記者に聞かれたが、事実を言うワケにはいかなかった。


全てはパンチャードームのカラクリのお陰で勝っていますと暴露すれば、自分はおろか、チームメイトも路頭に迷ってしまう。


言いたくても言えなかった。


当時はオーナー結野の言いなりになるしかなかった。


だが、ヤマオカがカラクリを暴き、自分もエンペラーズに入団出来た事で、足枷が無くなった。


このサイクル安打は自らの力で打ったものである。



そして先発の廣澤は最終回まで投げ抜き、被安打2、無四球 13奪三振という初登板で完封勝利を上げた。


試合後、ヤマオカこと珍太朗はゴールデンズに対して

「こんないいピッチャーを飼い殺しにしたゴールデンズ、いや、無能なオーナーのツラを拝んでみたいね、ワハハハハハ!」

と、穴堀オーナーに対する批判するようなコメントをした。



これに対して穴堀オーナーはノーコメントとしか言わなかった。

いや、言えなかった。


もしうっかり変なコメントをしたら、例の性癖がバレてしまう。


そう言いつつ、今宵もSM倶楽部に通い、女王様に鞭で打たれて快感に浸るのであった。



翌日もエンペラーズは打線爆発。


連日の二桁得点で圧勝。


ついに単独二位に躍り出た。


首位のボンバーズとは0.5ゲーム差まで縮まった。


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