小細工に敗けた
終わってみたらハードパンチャーズのワンサイドゲームだった。
9対0
先発の榊は4回途中で5失点でマウンドを降りた。
代わった投手も打たれハードパンチャーズ打線にめった打ちにされた。
投げては先発の渡邊が2安打3四球 9奪三振の完封勝利だった。
エンペラーズの2安打は櫻井のツーベースと垣原のシングルヒットのみで、三塁を踏ませないピッチングでエンペラーズをねじ伏せた。
試合後ロッカールームでは怒り狂う榊が椅子を投げたりバットであちこち叩きつけ、グチャグチャになっていた。
試合終了時にはすでに榊の姿はなく、さっさと帰ったらしい。
荒れたロッカールームで選手達はヤレヤレと言った表情で後片付けをしていた。
「おかしい。」
櫻井が口を開いた。
隣には垣原がいる。
「垣原さん、あのピッチャーの球おかしくなかったですか?」
櫻井は2安打のうち、1安打を放った垣原に聞いてみた。
「確かにな。ナックルってのは無回転だからな。だけど渡邊の球は無回転じゃねぇ。」
「そうなんですよ。無回転なら縫い目が見えるんですが、彼の球はおもいっきり回転してましたよ。まさか、違反投球では?」
櫻井も垣原もそれは知っていた。
現に高梨の打席の際、タイムをかけ主審とボールを見たのだが、どこも細工をしているようなボールではなかった。
「証拠がないからには、何を言っても単なる言い訳にしか聞こえんからな」
垣原の言うとおりだ。
一方、この試合を観戦していたオーナーはあまりの不甲斐なさに監督のヤマオカを呼んだ。
「にゃんたる不穏!あんな負け方するなんて、あちきは情けないぬ!」
オーナーは怒り心頭だ。
「仰せの通りです」
ヤマオカはそう答えた。
「バカもん!他に方法はないのかぬ!にゃんとしても明日は勝つんだぬ!」
「かしこまりました。しかし、シーズンは始まったばかり。まだまだ策はあります」
「呑気な事言うんじゃないぬ!初っぱなからあんな負け方じゃやつらは勢いを増すばかりだぬ!」
オーナーの怒りは収まらない。
「オーナー!!」
「なんだぬ!」
ヤマオカに考えがあるようだ。
「明日からの1週間私に休養をくれませんかね?必ずハードパンチャーズのカラクリを暴いてみせますから~っ!!どうですか、オーナーっ!!」
ヤマオカがオーナーをガッチリとサソリ固めをで捕らえて締め上げる。
「ぬーーーーーん!ギブ、ギブギブギブ~っ!!わかったぬ!早く技をほどくぬ!」
「ダメですオーナー!!秘密を暴き出して完膚なきまでに叩きのめさないと気が済まないんです~っ!!」
尚もサソリで締め上げるヤマオカ
「んぎゃ~折れる、腰が折れる~?」
「どうですかオーナー!」
「ギブアップぬーーーーーん!」
そしてオーナーは2日続けて担架で運ばれた。
ヤマオカは明日から1週間休養をもらった。
ヤマオカのいないベンチはヘッドコーチの坂本が采配をふるうことになった。
【エンペラーズ、早くも空中分解か?ヤマオカ突然の休養】
スポーツ紙の1面には早くも時期監督の話が浮上している、とキナ臭い記事まで書かれていた。
第2戦、第3戦もエンペラーズは敗れ早くも開幕3連敗を喫した。
エンペラーズナインは意気消沈しながらも飛行機に乗り本拠地静岡のエンペラーフィールドに戻った。しかしそこにヤマオカの姿はなかった。
ヤマオカはエンペラーズナインが宿泊していたホテルにまだいたのだった。
ヤマオカはサングラスを取り、アゴのつけ髭を外し、白銀のウィッグを外した。
ヤマオカの正体は、かつてミスタースーパーフライの称号でスーパーフライヤーズの黄金時代を築き、宇棚ひろしが現役の時に采配をふるった宇棚 珍太朗(うだな ちんたろう)であった。
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