⑩-残された者達の行方-
「んな馬鹿なことがあるかっ!」
ライラが掌で机を叩き、甲高い音が室内に響き渡った。それだけで机はミシミシと軋む。人の家の物だけど大丈夫かな、とユキトが心配してしまうほど力任せだった。
ニックスが消え去った後、ユキトは時間を節約するためにサンドラ宅で真相を話すことにした。事が事だけにサンドラとミリシャ、アルルには二階に上がって貰っている。
ユキトが話を伝え終えたとき、ライラとセイラには隠しきれない動揺が浮かび上がっていた。ライラが吠えたのも、憤りよりは困惑の面が強い。
「なんでガルディーン卿の部下がルゥナール様を襲うんだよ! 同盟州だろうが! あり得ないだろ!?」
「いえ、まだガルディーン様の部下だと決まったわけではありませんわ」
諭すようにセイラは否定する。そんな彼女も、まるで戦に臨む戦士のように険しい面持ちではあった。
「ラウアーロという男が部下である確証は取れてない。そんな者の名は初耳ですし。むしろ詐称してニックスに近づいた可能性もある。最初から奇襲狙いだったなら、どの陣営に属しているかは自ずと想像できますわ」
「そ、そうか……! ライゼルスの野郎共が仕掛けたってことだな?」
「ええ。分断工作を計画し、我が国に潜んでいたわけです。ダイアロン連合国内には黒装束の襲撃者も出ている。そのラウアーロが関与しているかは断定できませんが、ユキト様が狙われた件も合わせて敵の計略の一部ではないかと」
セイラの理路整然とした話に、ライラは少しだけ顔色を晴らした。味方の仕業などとは考えたくもないのだろう。相手が敵国なら怒りも向けやすい。
だがユキトは、そこに水を差す発言をしなければいけなかった。
「待った。ゴルドフさんが言ってたけど、ドルニア平原の街道は全部封鎖されてたんだろ? 迂回経路も監視だらけで侵入できないって聞いてる。連合国側の土地でニックスと落ち合うことは無理じゃないのかな」
「おそらくですけど、事前に伏兵を忍ばせていたのではありませんか?」
「……いや、駄目だセイラ」
否定したのはライラだ。先程まで浮かべていた納得の表情を引っ込めて、彼女は机の上に広げた地図を睨んでいる。この部屋に置いてあった代物だが、ニックスが経路を調べるために使ったようで幾つか印が書き込まれてあった。もちろん奇襲部隊と合流する所定位置も記されている。
「待ち伏せの可能性は司令部でも想定してんだよ。あたいは先遣部隊としてこの近辺を入念に調べてる。だけど誰もいなかった」
「では会戦してから接近したということでは」
「もしそうだとしても、街道沿いは補給線と工兵部隊で埋め尽くしてる。監視網も敷いてたし、ぞろぞろと黒塗りの奴らが動いてたら誰かが気づいてる。でも爺様の調べでは、そんな野郎共は目撃されてない」
ライラの話を吟味するように黙り込むセイラだが、ややあってその口元を微かに歪めた。
「……急に現れた、なんてことがなければ、事態は一つしか考えられませんわね」
「元々連合国側に所属してた人間、ってことだな」
ユキトが引き継いで答えた。
ゴルドフが兵士達に聞き取り調査をしたのは、あくまで奇襲部隊を目撃していないか、という点だ。仲間の中に襲撃者が混じっているなど露とも思っていない兵士達は、そんな連中は見なかったと揃って答えるだろう。ここに齟齬が生じている。
「たださ、連合国側の正規兵とか傭兵の中にライゼルスの人間が混ざってた可能性はあるんじゃないかな。素性を隠して入隊してたとか」
幾分かセイラ側に寄った憶測を口にしてみたが、当のセイラがゆっくりと首を振った。
「さすがに敵国の人間を迎え入れるほど間抜けではないですわ。身辺調査は抜かりありませんし、そもそもライゼルス人は人種が違うから見分けもつきます」
少し意外な事実だった。異世界人のユキトにとっては会う人間全てが同一人種のように見える。彼女たちからすれば、顔つきや骨格などの違いがあるようだった。
「……何なんだよ、マジで」
苦虫を噛み潰したような顔でライラが呟く。手に力を込めたせいで、地図がぐしゃりと歪んだ。
「意味がわからねぇよ。そりゃお偉方の間では権力争いとかあるかもしれないけどさ、わざわざ戦争のときに暗殺をしなくていいだろ? ライゼルスに敗北したら元も子もねぇんだ」
彼女の指摘はゴルドフの意見とも一致している。敵国との戦争中に総大将が死ねばどうなるかなど、簡単に想像が付く。加えて暗殺をしかけるなら緊急時ではなく平時のほうがよほどやりやすい。
だが現実は、そのメリットの低い方向性を示唆し始めている。不自然だからこそライラもセイラも混乱しているのだ。
しかし、奇襲を仕掛けた相手にとっては不自然な話でないとしたら、どうだろうか?
ユキトはその観点から逆算していった。一見すると無意味な行為でも、それはユキト達の視点から捉えた価値に過ぎない。別の立ち位置からすれば十分に意味がある行動かもしれない。
では、その意味とは何か? どこにあるのか?
考え込んだユキトの中に、一つの道筋が浮かび上がる。
「……奇襲を選択したのは、ライゼルスの仕業と認識させたかったからじゃないか」
二人の視線がユキトに向けられる。
「普段の内にルゥナを暗殺すれば、州内の誰かに疑いの目が向けられる。それを避けようとした」
「だとしても戦時中を選ぶ必要性が薄いですわ。ルゥナール様の巡業中など他にも機会はあるでしょうに。味方の犠牲を増やす条件を選ぶなど正気の沙汰とは思えません」
「いや、戦時中ってのが重要な要素だったんだと、俺は思う」
セイラは眉をひそめ、ライラは理解が追いつかずぽかんとする。
仮説に絶対の自信があるわけではないが、それでもユキトは臆することなく告げた。
「まず考えてみてくれ。ニックスは三日目に合流することを指示されてた。でも、これっておかしいと思わないか? なんで
「あっ」「そういや……」
二人揃って声を上げる。
セイラは不味い物でも食したように口元を手で隠して眉根を寄せた。
「そうよ、なぜ気づかなかったの……戦争を引き延ばせば引き伸ばすほど双方に被害が増える。もしライゼルスの策謀だったら、一日目から仕掛けるのが普通ですわ」
「疲弊させて奇襲しやすくしたかったんじゃね? 三日目はうちが有利に立ってたし、油断するのを待ってたとか」
「いいえライラ。それでもライゼルスは早期決着を目指すのよ。兵士の数が確保できて物資の備蓄も十分だったら、そのままゼスペリアの陣地内にまで攻め込める。おそらく街道の村々は略奪された上、幾つかの関所と砦が陥落していたはず。だけど疲弊していたライゼルスは一度本国に引き返し、ビジ鉱山とゼスペリアの税収を奪う弱体化の方向に切り替えてる」
頭の回転の早いセイラはすでにユキトの考えに辿り着いていた。
つまるところ、ライゼルスの計画と考えるにはあまりに杜撰なのだ。奇襲後にすぐに畳みかけなかったことといい後手に回りすぎている。入念な作戦を展開できる相手が、みすみす機会を逸するとは考えにくい。
更にユキトは核心部分へと繋げた。
「むしろ奇襲を仕掛けた人間たちはさ、三日目をわざと選んだんじゃないかな」
「それはなぜでしょうか?」
「当時はゼスペリアのほうが有利に立ってる。たとえ総大将を失って司令部が崩れたとしても、ライゼルスに追撃戦をするだけの余力がないのは明白だった。つまり負け戦にはなっても、陣地を奪われるほどの損害は回避できる……だから戦争中の暗殺に踏み切った」
「じゃあなにか、首謀者共はダイアロンを負けるように仕向けて、だけど負けすぎないように調整したって言うのかよ?」
ライラが失笑して隣のセイラに同意を求める。だがセイラは難しげな顔をして地図を眺めるだけだ。同調する気配はない。
「……不可能ではないですわね」
「おい、お前まで!」
「もちろん突拍子のない仮説ですわよ。でも両軍の戦力と作配を完璧に想定し、ライゼルスの撤退まで読めるような優れた頭脳の持ち主なら、あるいは戦場の動きを思いのままにできるかもしれない」
「ははっ、そんな無茶苦茶な奴がどこに――」
言葉の途中でライラが声を切った。ギリ、と奥歯を噛み締めている。
どうしたのかとユキトが疑問符を上げると、ライラの代わりにセイラが教えた。
「どうやらライラも思い至ったようですわね。その無茶苦茶な奴とやらに」
「誰、なんだ?」
「この国随一の智謀と名高い、ガルディーン卿ですわ」
セイラは厳かに、その名を告げた。
「かの君主であれば成し遂げてしまうと思えるほどに、その知略は桁違いです。当時ガルディーン卿は参戦していませんでしたが、ギュオレイン州軍へ特定の命令を下していればあるいは」
ユキトは、妙に腑に落ちていた。
全王円卓会議で場の空気を操りジルナを追い込んだあの男ならば、寸劇を描くように流れを作り上げてしまうかもしれない。
セイラは乾いた笑いを浮かべ、前髪を掻き上げた。
「参りましたわね、これは。どう転んでも厄介なことになる……しかも相手があのガルディーン卿とは、気が滅入ります」
「でもよ、ガルディーン卿にルゥナール様を殺す理由がねぇだろ。別に仲違いしてたわけじゃないし……あるとすれば、ルゥナール様を殺すことで何か別のものに影響を与えようとした、とか?」
ライラは手探りするように呟く。そこでユキトは、話の展開を更に広げてみようとした。
「ガルディーン派閥は州全体を巻き込んだ合併軍を作りたがってるよな? で、今のゼスペリアはその目的に巻き込むにはかなりの好条件だ。つまり真っ当な方法でロド家を取り込むために、ジルナを州長代理にしたかった……とか、どうだろう」
「いくらガルディーン卿が合併軍の組織化を目論んでいるとはいえ、ゼスペリアを窮地に陥れてまで手に入れようとするのは少し飛躍しすぎでは?」
「そうだぜユキト殿。そもそもライオット殿がご健在だったら奇襲で死んでたのは婿殿の方で、ルゥナール様は生きてたんだ。今のジルナ様みたいな状況になってたとは限らないし、行き当たりばったりにも、程が、ある……」
最後の方の言葉は尻すぼみになって消えていった。ライラは「あちゃあ」と面倒そうに呟いて額に手を置く。セイラも察し、鬱屈としたため息を吐いた。
「……ライオット殿下の失踪すらも謀略のうち、ということですか」
ロド家の跡継ぎがジルナ一人になった、という状態こそガルディーンが付け入る隙だ。ジルナは軍務に長けておらず、指揮の経験も皆無で誰かの補佐が必須になる。しかしドルニア戦役で有能な将校の大半を失った状態では他州に助力を求めるしかない。
これがルゥナの場合であればまた違う結果になるだろう。ともすれば彼女一人で立て直そうとするかもしれないし、ガルディーンの思惑に乗らないことも十分に考えられる。
ガルディーンはより御しやすく無力なジルナを利用しようとした。そして、ルゥナを不自然でない形で排除するには戦場に引っ張り出すのが一番だった。ジルナの助けになる家臣も削減できるので一石二鳥でもある。
だが婿のライオットの失踪については、はっきりとした考察がユキトにはできていなかった。
「たださ、肝心なところが変なんだよな。ライオットって人を排除しても、ヴラド派がジルナを助けようと動いちゃってるだろ? ジルナがそっちに傾いたら合併軍どころじゃない。そんな綱渡りな計画をガルディーンが立てるかなって……それならライオットさんを懐柔したほうがよっぽど確実だと思うんだ」
「なるほど。もしかするとその線は試したのかもしれませんわね。でもお父上のアルメロイ卿はヴラド派ですし、ライオット殿下は首を縦に振らなかった。だから強硬策に出た、とか」
うーん、とユキトは腕を組みながら唸る。どうにもすっきりしない。理由なく突然に失踪させた経緯も、ガルディーンが黒幕だとするならかなり荒っぽい。
「あと味方側の犯行っていう前提ありきだからさ。セイラさんの言う通り、合併軍を作るためだけにここまでするか、って違和感は俺にもある」
「なんだよユキト殿も半信半疑じゃん!」
「うっ……ごめん」
詰めが甘いのはユキトも自覚していた。探偵ではないのでここらが推理の限界でもある。これ以上は調べてみないと結論には辿り着けないだろう。
それをわかっているのかセイラは「まぁまぁ」とやんわり仲裁した。
「とにかくこの件をルゥナール様、そしてジルナール様に報告いたしましょう。ラウアーロという男がギュオレイン州軍に在籍しているかも調査すれば、自ずとガルディーン卿の関与が明るみに出るはず」
「そうと決まればもたついてる場合じゃねぇな。アルル達を呼んでくる」
とライラが勢い込んで二階に向かおうとしたとき、ちょうどアルル達が階段を降りてきた。
しかしユキトは眉をひそめる。アルルはなぜか浮かない顔をしている。ミリシャも不安げに母の袖をぎゅっと握りしめていた。
「どうしたんですの、アルル」
セイラが問うと、階段を降りたアルルはチラとサンドラに視線を送った。
「あの、それが、さっきサンドラさんと話してて……」
「大丈夫。あたいから話すよ」
サンドラはどこか緊張気味な様子だった。一歩前に出ると、ユキトに向かって聞く。
「導師様。ニックスがしでかした内容は、全部わかったのかい?」
「あ、はい……でもですね、ニックスさんが全て悪かったわけではなくて」
「いいんだよ、女房だからって気を遣わなくてさ。どんな理由があれ、やっちまったことは変えられない……あたいの旦那が、ゼスペリア州の人たちを苦しめたことも」
サンドラの目に感情の揺らぎはない。それは覚悟を決めた人間の持つ清々さだ。
「当然、身内のあたい達もタダじゃ済まないのはわかってる。旦那の不始末を償えといわれれば、従うつもりさ」
「でもサンドラさん! ニックスさんはあんなに貴女のことを……!」
慌ててアルルが止めに入るが、サンドラは優しく首を振る。
「いいんだよアルルちゃん。優しいねあんたは。あんなにきつく当たったのに……でもね、あいつの前じゃ心配するだろうから言わなかっただけさ。聞いたときからもう、あたしは決めてたんだよ。あいつの罪を一緒に背負うって」
ユキトは、何となくだが事情を把握した。一階でユキト達が話し込む間に、どうやらサンドラ達はこれからの処遇を話し合っていたようだ。
そしてサンドラは、ニックスの罪を肩代わりするつもりでいる。
「つまりあなたがニックスの代わりになる、と?」
「ああ、そうさ」
「止めておきなさい」
セイラは説得するというより、突き放すように言い放った。
「ニックスはもう死んでいます。罪を問い処罰することはできません。もちろん後々で明るみに出て、あなた達が迫害を受けるかもしれませんが、そんなものはわたくし達の関知することではないので。自分たちでどうにかしてください」
「……見逃してくれるってのかい」
「正直に言えば、貴女を裁いたところでこちらの溜飲が下がるわけではないのですよ。むしろ余計な手間をかけさせないで欲しいくらいです」
刃物のような怜悧さだった。黙っているライラも同じ考えのようで、興味なさげに別の方向を向いている。加害者の身内と被害者という立場が、決定的な段壁になっていた。
「それにお子さんはどうされるんですか。離れてもいいんですか」
自分のことが話題に出ていると気づいたミリシャは、縋るように母親を見つめる。
しばし黙り込んでいたサンドラだが、苦痛を堪えるように声を絞り出した。
「……この子は知人に預ける。この先、旦那や私のせいで辛い目に合わせるくらいなら、今ここで離れた方がいい」
ミリシャの顔が崩れた瞬間、我関せずを決め込んでいたライラが苛立ったように声を上げた。
「あのなぁ! そうやって自分のことばっか考えても――」
「いいんじゃないか。償ってもらえば」
遮ったのはユキトだった。皆の視線が一斉に彼に集まる。
「サンドラさんにはゼスペリア州に来てもらう。別にいいよな?」
「……なにを仰ってるのですか」
セイラが訝しげに問うと、アルルが駆け寄りユキトの腕を掴んだ。目に悲痛を浮かべながら彼女は懇願する。
「そんなのあんまりですユキト様! せっかくミリシャちゃんも変わろうとしてるのにここで離れ離れなんて……! 何とかしていただけませんか!」
「大丈夫。ミリシャちゃんもゼスペリアに来てもらうから」
「「は?」」
間の抜けた声を上げたのはセイラとライラだ。
「だから、二人にはゼスペリアに来てもらって、ゼスペリアのために働いてもらうってことさ。ジルナには俺から頼んでおくから」
「ち、ちょっと待ちなさい! そんな勝手が許されるはずないでしょ!?」
珍しくセイラが慌てた。敬語すら忘れている様が、彼女の感情の昂ぶりを示している。
「あなたはこの国の法を知らないのでしょうけどね! 反逆罪を侵した者は親族含めていかな理由があろうと極刑が下されるの! 勝手な裁量で罪を償えなんて何様のつもりなんですの!」
「だけどセイラさん、さっき言ってたじゃないか。ニックスは死んでる、だから罪に問えないって。サンドラさん達にもその法律は適用されないでしょ」
「そ、それは……」
「それでもサンドラさんの気が済まないなら、傷つけた人たちのためにできることをやればいい。方法はいくらでもある。ミリシャちゃんとも離れずにすむ。それに」
とそこでユキトはセイラに近づき、小声で囁いた。
「俺の動きは襲撃者に把握されてた。この家にいることが知られれば、ニックスとの繋がりを辿ったことに気づく。そうなったらサンドラさんとミリシャちゃんも危うい。もしガルディーンが関わってるならギュオレイン州に置いておくのもまずい。でもゼスペリアに移住させれば、少なくとも手出しはしにくくなる」
想像もしていなかったようでセイラは目を見開いていた。よろけるように後ずさった彼女は、ユキトを値踏みするようにまじまじと見つめる。
「あ、あなたは、それを一人で考えだしたんですの?」
「そうだけど」
セイラは絶句した。
ユキトは、彼女が何に驚いているのかよくわからない。ニックスの願いは家族を守ることで、それを尊重しただけだ。あとはサンドラの感情の行方と状況を照らし合わせて無理のない方向に導いたに過ぎない。
ややあって、セイラは肩を揺らして笑い始める。最初は含み笑い程度だったが、次第に声が大きくなった。その変化にライラも目を丸くしていた。
「ふ、ふふ……ここまで信念を貫くとは、驚きました。導師にしてはなんだか危なげで大それたことをのたまう変なガキンチョだと思ったましたけど」
「が、ガキンチョって……」
「でも今、見方が変わりました。いいでしょう。賛同いたしますよ。ジルナール様にはわたくしからも頼みます。ということで貴女方の処遇はこちらで決めさせていただきますけど、よろしくて?」
「あ、は、はい……!」
事態についていけないながらサンドラが頭を下げる。ミリシャも母を真似て、精一杯感謝のお辞儀をしていた。
母娘の様子を満足気に眺めたセイラは「大したものですわね」とユキトにウインクする。
「ルゥナール様にジルナール様があなたを気に入るのも無理ないですわね。むしろ、わたくしもあなたが好きになりそうです。お相手がいなければ立候補して構いませんか?」
「うぇ!? な、なんでそうなるんだよ……!」
ユキトが赤面して慌てふためくと、セイラはくすくす笑う。
彼らのそばではアルルが「ラ、ライバルが……!」と動揺し、ライラが「どうなってんだよ……」と呆然としていた。
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