第99話

 まるで宇宙空間にいるようだ。暗闇の奥に見えるのは、無数の輝く星たち。エレベーターに乗っているかのような重力感が、俺たちを塔の上へと導いているのが分かる。


「よくぞ来たな。人間たちよ。我は、神の魚だ。火の巫女、水の巫女、風の巫女、大地の巫女。4つの紋章を集めし勇者に、3つの願いを叶えてやろう」


 この脳に直接響くような声、間違いなく転生前に釣った神の魚の声だ。他の者にも声は伝わっているらしい、真黒まぐろりょうが嬉しそうな声を上げる。


「やりましたね、ルシカさん! 3つの願いがあれば、1つ目でファンドラさんを生き返らせて、残り2つで私たちも元の世界に戻れますよ!」


「いや…… ちょっと待て。俺たちは、火の巫女であるスゥーと水の巫女であるフィーナしか連れてきてない。残り2人の風の巫女と大地の巫女がいないぞ」


 俺は、嬉しそうにはしゃぐ真黒をなだめる。その時、暗闇の奥から人影が現れた。それは、意外な人物だった。


「よくやった! 我が息子、ルシカよ。火の巫女と水の巫女をここまで連れ来てくれたな。風の巫女と大地の巫女なら、ここに連れてきている」


 俺に話しかけて来たのは、転生したこの世界の実の父親。魔法戦士ガイウスだった。ガイウスは、鎖に繋がれて、奴隷の服を着させられた2人の少女を俺の前に差し出す。


「……父さん。なぜ、ここに!?」


「ガイウス様……」


 俺とスゥーは、驚きを隠せない。スゥーにとっては、ガイウスは奴隷から解放してくれた恩人でもある。


「なに、簡単な事だ。お前は、スゥーを連れて東へ旅立った。私は逆に西に旅立ち、風の巫女と大地の巫女を捕まえてきたのだ。神の魚に会い、願いを叶えるためにな」


「なんで、父さんが神の魚の事を知っているんだ? それに、巫女を奴隷のように捕まえるなんて…… 父さんのすることとは、思えない!」


 俺は、ガイウスに泣きそうな顔で尋ねる。転生してから18年間、育ててもらった恩義があるし、尊敬もしていた。


「私を誰だと思っている? 魔法戦士ガイウスだぞ。自分の息子の心を魔法で読むことなんて朝飯前だ。それにしても、あの時は驚いたよ。自分の息子が、異世界から転生してきたとはな」


「魔法で心を読む? じゃあ、父さんは全て知っていたのか……」


「そうだ、そして神の魚の存在を知った。お前を育てていた18年間も調べ続けていたよ」


 まだ信じられない。だが、父は…… ガイウスは、人格者だ。俺は、ガイウスに尋ねる。


「父さん…… 神の魚に願いがあるんだ。ファンドラを生き返らせてほしい。俺は、元の世界に戻れなくてもかまわない。だから……」


 ガイウスは、笑顔を俺に見せた。いつもの優しい笑顔だ。時に厳しく稽古をしてくれたが、いつも少年の頃見せてくれた、優しい父の笑顔だった。


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