第97話

 ソープは、剣の天才と言っても過言ではない。かの新選組天才剣士、沖田総司と同じく一度に3本の突きを繰り出してくる。しかも、刀より重いブロードソードでだ。


「ルシカ様! がんばってください!」


 背後から、スゥーの声援が聴こえる。だが、振り向いている余裕はない。俺は、ソープとの間合いをじりじりと詰める。後手に回っては、3段突きを出されて不利だ。


「行くぞ! ソープ!」


 俺の方から先制攻撃を加える。ソープは、それを丁寧に剣で受け止める。


「ルシカさん。あなたとは、魔法無しでもう1回戦いたいと思っていたんですよ」


 ソープは余裕の表情で、俺の攻撃を受け止めていく。初めてオアシスの町で戦った時は、木剣でやり合った。だが、今回は真剣勝負だ。


「前回の時のようにはいかないぜ!」


 俺は休むことなく攻撃を続ける。ソープが相手では、釣り糸を使ったりと小細工する暇もない。


「だいぶ上達していますね、ルシカさん。だが、しかし」


 防御に徹していたソープの剣が、徐々に俺への攻撃へと変わってくる。打ち合うたびに、わずかだが俺の方が押されている。


「がんばれ! ルシカ様!」


「ここで負けるわけにはいきませんわよ!」


 スゥーとフィーナの声援も強くなる。しかし、剣の腕はやはりソープの方が上だ。このまま、まともにやっていたのでは勝ち目はない。俺は、そう確信した。


「どうしました? ルシカさん。剣に迷いが出てますよ」


 ソープが挑発してくる。剣を通じて俺の迷いまでも分かるのか? ドレーヌの時のように、わざと隙を作って誘いこむか? いや、それが通じる相手とは思えない。


「そろそろ、終わりです」


 ソープは声とともに、俺の隙をついて3本同時の突きを繰り出した。1つめは剣で防ぐが、2つ3つの突きが俺の肩と腕に命中する。


「ぐわッ!」


 痛みに声を抑えることはできなかった。俺は、後退して距離をとる。左腕から血が流れだしてきた。


「ルシカ様ッ!」


 スゥーの悲痛な声が聴こえる。ソープは、ゆっくりと話しながら近づいて来る。


「ルシカさん、どうですか? 降参しては。私の仲間になれば、幹部待遇で歓迎しますよ」


「ふッ。お前は、仲間を集めてどうするつもりだ?」


 俺は、時間を稼ぐためにも話に乗ることにした。


「この世界は、貴族や王族が権利を欲しいままにし、その他大勢は奴隷として扱われています。私は、そんな世界を変えたいんですよ」


「剣の力で、世界が変わるとでも思っているのか?」


「……もちろん、私1人がいくら剣の使い手でも世界は変えられません。しかし、ここにはいるじゃないですか? 神の魚がね」


 ソープは、神の魚の存在をやはり知っている。神の魚の力で、世界を変えようと考えているようだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます