第93話

「俺は、ずっと元の世界に戻るために神の魚を探していた…… だが、今は違う!」


 俺の言葉に、泣いていたスゥーが顔を上げた。


「ルシカ様?」


「俺は、ファンドラを生き返らせる! 神の魚に、そう願おう」


 俺の心は決まった。もう元の世界に帰れなくてもかまわない。嫁と子供…… 残してきた未練は無いとは言えないが。


「天空への塔は、ここからさらに北にある山岳地帯です。しかし、2つの難問があります。まずは、火の巫女と水の巫女の紋章が必要な事……」


「うーん。火の巫女ならここにいるが、水の巫女の方は探さないとならないな」


 腕を組んで考える俺に、フィーナが話しかけた。


「水の巫女の紋章ならここにありますわよ。わたくし、水の巫女ですもの。言ってませんでしたっけ?」


「聞いてないぞ! 水の巫女の遠縁に当たるって言ってなかったか!?」


「そうですわ。だから、水の紋章を持っているのですわよ」


 フィーナは、額にブルーに輝く紋章を映し出して見せた。


「とにかく、これで1つめの難問はクリアですね。2つめの難問は、塔の入り口を守る番人のことです」


「たしか、巨人がどうとか言っていたな」


「ええ、塔の入り口を守っているのは屈強な巨人の戦士。レッドドラゴンに匹敵する強さです」


 俺は、自信を持って答えた。


「それなら、任しておけ! 俺とスゥーの火の魔法の力なら、巨人ごとき敵では無いだろう」


「巨人ファンの私としては、悲しいところですが…… 先の竜との戦いを見れば納得できます。ならば、ご案内いたしましょう!」


 俺たちは、吟遊詩人の案内で天空への塔を目指し歩き始めた。フィーナが、ぶつぶつ文句を言いだす。


「また、山道を行くのですの? わたくし、もううんざりですわ」


「フィーナ様。辛抱してください。ファンドラさんを生き返らせるためですよ」


 スゥーがフィーナをたしなめる。ファンドラの遺体は、フィーナの魔法で氷漬けにしておいた。半永久的に溶けない氷の魔法らしい。


「ところで、肝心の神の魚はどうやって釣るんだ?」


 俺は、先頭を歩く真黒まぐろと名乗った吟遊詩人に質問する。真黒は、振り向くことなく俺に答えた。


「それは、私にも分かりません。数々の伝承を調べましたが、この世界で神の魚が住んでいるのは天空の塔の頂上、星屑の海だということだけです」


「どうやって釣ればいいのか分からないのでは、準備のしようも無いな……」


「まずは、釣る事より会うことを考えましょう。魚と言えども神なのですから」


 真黒の言うことはもっともだ。相手は、魚と言えども確かに神。人間を転生させる力を持っているのだから。俺は、黙って歩くことにした。


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