最終章 星屑の海 ~神の魚編~

第92話

 聞き覚えのある歌声が聴こえる。どこか切なくて、不思議なメロディ。


「異世界より来た勇者は、赤き竜を倒し伝説となった。しかし、大切な仲間の命と引き換えに…… 求めるは、天空に浮かぶ星空の銀河。神の魚のおわす処」


 暗闇から姿を現したのは、旅の先々で見た吟遊詩人の姿だった。


「あ、あんた。なんで、ここに?」


「お久しぶりです。ここにいるのは、偶然ではありません。私の名前は、真黒まぐろ りょうと申します」


 吟遊詩人の男が、帽子をとって名を名乗る。


「マグロ リョウ? まるで、日本人みたいな名前だな…… まさか」


「ええ、そのまさかですよ。私も神の魚に導かれて、この世界へ転生してきた者なのです」


 吟遊詩人の言葉に驚きを隠せない。スゥーとフィーナは、俺たちのやりとりにキョトンとしている。


「彼女を生き返らせる方法は、たった一つ。そう、神の魚に生き返らせてもらうのです!」


 俺は、唾を飲み込んで話す。


「確かに、神の魚ならファンドラを生き返らせることは可能かもしれない…… だが、どこにいるんだ!? 今までお前のうたを信じて釣りに行ったが、全部ガセだったじゃないか!」


 吟遊詩人は、手に持ったギターに似た不思議な楽器を奏でだす。


「天空への塔。星屑ほしくずの海…… 火の巫女と、水の巫女の紋章を手にし、巨人を倒した先にある。それが、真の神の魚のいる場所」


「天空への塔だって? どこにあるのか知ってるのか!」


「はい。私も元の世界に戻るため、神の魚について調べつくしました。ご案内できます」


 スゥーが口を挟む。


「ルシカ様…… 転生って、どういうことですか? この吟遊詩人さんと知り合いなんですか?」


 スゥーの瞳を見つめ、俺は目を閉じた。事情を話さざるを得ないだろう。


「スゥー…… この間、アキハバラという町に行ったな。あの町があるのが日本という、俺が元々住んでいた異世界なんだ」


「異世界って、何を言ってるんですか? ルシカ様」


「聞いた事がありますわ。この世界にとは別に異なる世界があるという話」


 フィーナが冷めた声で言う。俺は、頷いた。


「話せば長くなるが…… 俺は、異世界から転生してきたんだよ。神の魚のせいでな」


「信じられない……」


 スゥーは、黙って下を向く。そこへ吟遊詩人が話し出した。


「お嬢さん。ルシカさんの言っていることは、本当ですよ。私も同じく異世界から転生してきた者なのです」


「それで納得しましたわ。ルシカが神の魚に執着していた訳が。元の世界に戻るためだったのですわね?」


 フィーナの声に、俺は再び頷く。


「そうだ…… 元の世界には、妻も子供もいる。俺は、帰らねばならない」


 俺の声に、スゥーは肩を震わせている。


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