第91話

 俺の魔法の炎と、レッドドラゴンの炎の息。2つのぶつかり合う炎は、徐々に均衡を崩していく。俺の炎が押されいるのだ。最大の魔力を使っても、竜の息には敵わないのか……


「ルシカ様! 負けないでください!」


 その声と同時に、スゥーが結界から出てきて俺の元へ駆け寄る。俺は、びっくりして叫んだ。


「ダメだ! こっちに来るんじゃない、スゥー!」


 だが、俺の制止を聞かずスゥーは俺を後ろから抱きしめる。その時、奇跡が起きた。


「俺の手に、火の巫女の紋章が!?」


 スゥーを通じて伝わってくる熱い思い。俺の手の甲には、ルビーのように輝く、スゥーの額にあるのと同じ模様の紋章が浮き上がった。それと同時に、俺の手から出る炎の勢いが何倍にも増した。


「人間ごときが! 馬鹿なッ!」


 俺とスゥーの2人の炎がレッドドラゴンの全身を焼き尽くす。炎に包まれたドラゴンは、たまらずに声を上げる。


「お、おのれー! 人間ごときの魔法に、我が負けるだと…… 屈辱だが、退かせてもらうぞ」


「逃がさない!」


 翼を広げようとしたドラゴンは、思うように体が動かずもがきだす。


「なんだ? 翼が…… 体が、動かぬ」


「お前の体に、魔法で強化した釣り糸を巻き付けておいた! お前は、ここで焼け死ぬんだ! レッドドラゴン!」


 絡まる釣り糸に、レッドドラゴンは身動きがとれず、その身を焦がしていく。何度も何度も唸るような、断末魔の声をあげた。肉の焦げる匂いが辺りに立ち込める。


「グゥオオオオッ! 人間ごときに…… 人間ごときに……」


「お前は、神にはなれなかった。人間の思いを、悲しみを理解できない…… そんな者が、神になどなれるはずがないんだ! だから、お前はここで灰になれ!」


 俺とスゥーは、さらに火力を上げる。鮮やかな赤から、黒い炭となったレッドラゴンの体は、燃えたまま崩れ始めた。俺たちの勝利だ。


「ふぅ…… やっと死んだか」


 俺は、額の汗を拭う。後ろからスゥーの泣き声がする。


「ルシカ様! ファンドラさんが…… ファンドラさんが……」


 そして、ちょうど遅れてやって来たフィーナも駆けつける。


「嘘ですわ! あのファンドラが死ぬだなんて! わたくしは、認めませんわ!」


 神に等しき存在である竜を倒した後に、残ったのは仲間を失った悲しみだった。この世界には、治癒の魔法は数あれど…… 人を生き返らせる魔法は存在しない。


「ファンドラは、最後…… ありがとうと言ってくれた」


「ファンドラさん! ファンドラさん!」


 スゥーは、ファンドラの亡骸を抱きしめながら泣き叫ぶ。その時、洞窟の暗闇から聞き覚えのある声が聴こえた。


「彼女を生き返らせる方法が、たった一つありますよ」


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