第87話

 俺たちはレッドドラゴンが棲むという、火の山を目指して全速力で走った。さすがに人魚のフィーナは足が無いので追いつけなくなる。


「わたくしにかまわず、スゥーちゃんを助けに行きなさい!」


 フィーナを置いて、俺とファンドラは山道を突き進む。ここまでの道のりは1本道なので、迷うことは無かった。やがて、山の中腹に洞窟の入り口を見つける。


「きっと、あの中だ! 行くぞ、ファンドラ!」


 俺は、火の魔法『鬼火(ウィル・オー・ウィプス)』で明かりをつける。洞窟の入り口は大きく、高さは10メートルはありそうだ。それだけレッドドラゴンの巨大さが伺える。


「ルシカ君! 急ぐのはいいが、足元に気をつけろよ」


 ファンドラからの忠告を受けながらも、俺たちは洞窟の中を駆け足で駆け抜ける。しばらくして、洞窟の奥にたどり着いた。そこには、火の民の若者に囲まれたスゥーがいた。


「スゥー! 無事か!? 助けに来たぞ!」


 俺の声にスゥーが反応する。


「ルシカ様! なぜ、ここに……?」


 火の民の若者たちが、俺の前に立ちはだかろうとする。


「よそ者め! 儀式の邪魔はさせんぞ!」


「お前らにスゥーは渡さん!」


 俺は剣を抜き、戦おうとした瞬間。地面が大きく揺れた……


「何だ? この振動は……」


 空気の震えが分かる。洞窟の奥の暗闇の中から、低くうめくような咆哮が鳴り響いた。


「レ、レッドドラゴン様だ! 逃げるぞ!」


 火の民の若者たちは、俺たちを置いて逃げようとした。その時、雷光のように一瞬、光が瞬く。大きな口から吐き出された灼熱の炎が、火の民の若者たちを一瞬で焼き尽くした。


『騒がしい…… 愚かな下等生物ども』


 脳に直接響くような低い声。聴いただけで、背筋が凍りそうになる。俺たちの前に現れたのは、赤い…… そう、赤い巨大な竜の姿だった。


『ようやく、火の巫女を連れてきたか…… 待ちわびたぞ、人間どもよ』


 レッドドラゴンの低い声に、俺は怯まずに答える。


「レッドドラゴンよ! 火の巫女は渡せん!」


『ほう…… 人間ごときが、我に歯向かうと言うのか? 面白い』


 レッドドラゴンの黄金に輝く瞳が、俺を見つめる。翼を広げたレッドドラゴンの大きさは、10メートルは軽くあるだろう。冷や汗が首元を流れる。


「ルシカ様! 私は、火の民のために犠牲になってもかまいません! だから……」


 スゥーが、俺に向かって叫ぶ。俺はスゥーの目をしっかり見て答えた。


「スゥー! お前を生贄になんかさせない! お前は、俺たちの大事な仲間だ!」


 俺の叫びに、レッドドラゴンの笑い声が聴こえた。異種族の奇妙な笑い声だった。


『仲間か…… 愚かな人間どもよ、実にくだらん』


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