第77話

 まるで鯉のぼりのようなその魚は、ぬぼーとした感じで空中を泳いでいる。こちらに気が付いているのかどうか分からないが、いきなり襲ってくるような気配はなかった。


「ちょっと近づいてみよう」


 俺たちは、おそおそるその魚に接近する。だが、やはり攻撃してくる気配はない。今までの凶暴な魚とは違うようだ。


「これが、伝説の魚……? 神の魚なのか?」


「私が見た魚は、この魚で間違いないです」


 俺が転生前にあった神の魚は、言葉を喋った。この魚が神の魚なら同じように話せるはず。俺は、日本語でこの鯉のぼりのような魚に向かって尋ねた。


「お魚さん。あなたは神の魚ですか?」


 その時、俺の声に反応したのか。その鯉のぼりのような魚が光を放ち始めた。青白いオーラのような光が魚から発せられると、すぐに広がり俺たちをその光が飲み込む。


「な、何だ急に! この光は!」



 それから、俺は意識を失ってしまった……


 ……目を開けると、知らない場所にいた。いや、この風景は見覚えがある。立ち上る高層ビル。


「ここは……?」


 周囲を見渡すと、スゥーと鮎が同様に倒れていた。


「大丈夫か! スゥー! 河野さん!」


 俺は、2人を介抱する。スゥーと河野鮎は、すぐに目覚めた。


「ル、ルシカ様…… ここは、いったい」


「あ、ここは…… 私が伝説の魚に初めて会った場所です! 秋葉原の雑居ビルの屋上です」


 鮎が、話しながら指をさす。その方向には、小さな鳥居とほこらがあった。


「あそこが、私の調べていた伝説の魚の遭遇スポットなんです。よかった…… 元の世界に帰れたみたいです」


「ここは、秋葉原!? ちょっと待ってくれ、今は西暦何年なんだ?」


 俺の声に、鮎はスマホをポケットから取り出して確認する。


「2015年4月14日ですね」


「2015年…… 俺が、神の魚に転生させられた年と変わらないじゃないか!?」


 俺が、神の魚に出会ったのも2015年だった。それから異世界に転生して18年もの月日を過ごしてきた訳だが、この世界ではその時間がまるで無かったかのようだ。


「家に帰れる…… 嫁と子供に会える……!」


 俺の体は震えだした。ようやく元の世界に帰ることができたのだ。


「ルシカ様…… ここは、どこなんですか?」


 スゥーの声に、俺ははっと気が付いた。よく考えたら、スゥーもいるし俺の外見はルシカという18歳の少年だ……


「ダメだ。このままでは家に帰れない…… それに、スゥーとの約束を果たしてない」


「ルシカ様…… あの大きい建物は? ここは、いったいどこなんでしょう」


 スゥーは、周囲に見える高層ビル群を見て怯えていた。


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