第12章 亜空を泳ぐ死の魚! ヴァニラフィッシュ編

第72話

 俺たちは、ようやく炎天下の砂漠を脱出し緑広がる高原地帯へとやって来た。丘に上がると、地平の向こうに町らしき物が見える。


「ふぅ…… ようやく次の町に着きそうだ」


 俺は、手で汗を拭う。フィーナがハイテンションで叫ぶ。


「町ですわ! ようやくお風呂に入れますわ! 急ぎましょう!」


 前の砂漠の町では、水が有料だったため水浴びをすることができなかった。人魚であるフィーナにとっては、それがよっぽどこたえたらしい。


「スゥー君の情報がつかめるといいな」


 俺の隣でファンドラがつぶやく。しかし、昨日からスゥーは口数が少なくなっている。女性の気持ちとは難しいものだ…… ファンドラも一時期、そんな時があったし今度はスゥーの番か。


「どうしたんだ? スゥー。元気が無いぞ」


「い、いえ。そんなことないですよ! ルシカ様!」


 スゥーは、俺の声に笑顔で答えた。だが、どこか無理をしているように感じられる。疲れがたまっているのかもしれない。


「よし、みんな! 次の町では1日休みを取ろう。スゥーの故郷の情報収集は、ゆっくりやればいい」


「そんな事より、お風呂ですわ! お風呂ですわ!」


 急かすフィーナの声に、自然と足は速まった。そして、町の入り口に俺たちはたどり着いた。町の規模としては、そんなに大きいとは言えないが、明らかに今までと違う雰囲気がある。


「スゥーと同じ黒髪の人が多いな…… 何か関係があるのか?」


「そんな事より、早く宿屋に行くのですわ! お風呂ですわ!」


 俺の独り言は、フィーナの急かす声にかき消された。俺たちは、1件の宿屋を見つけてチェックインする。この宿屋も毎度おなじみの1階が酒場で2階が客室のタイプだ。


「さっそくお風呂ですわ!」


 フィーナはすぐに風呂場へと行ってしまった。残った俺たちは、先に食事をとることにする。俺は、さっそく酒場のオヤジにエールを頼む。


「くはー! 旅の疲れが吹き飛ぶぜ」


 俺たちが、食事を楽しんでいると1人の男が近づいて来る。見たことのある人物だ。


「おやおや、お久しぶりです。またお会いしましたね、美男美女の皆さん」


 不思議な形の、ギターのような楽器を持った吟遊詩人バードの男だ。この男の神の魚に関わるうたを聴いて、今まで散々な目に会ってきた。


「1曲いかがですか? この地に伝わる、亜空間を泳ぐ神の魚のうたがあるんです」


 ……嫌な予感しかしない。しかし、神の魚と聞いては聞き逃すことはできない。


「よし、歌ってくれ」


 俺は、ためらわずに頼んだ。吟遊詩人は、ギターのような楽器を奏で始める。どこか淋し気なメロディーが酒場に響き始めた。


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