第70話

「スゥー! なんで? いや、どうやってここに!?」


 スゥーの服はあちこち焦げ付いて、白い肌を露出させていた。


「ルシカ様! 私は火の巫女です。炎の中でも自由に動けます!」


 そういえば、そうだった。スゥーの額には、火の巫女である紋章が赤く輝いている。火に耐性があるスゥーが、ここまでやって来れたのは当然のことだった。


「あははは! 随分と頼もしい助っ人が現れたものですね、ルシカさん」


 スゥーを見たソープは、鼻で笑っている。しかし、スゥーの表情は真剣だった。スゥーは弾き飛ばされた俺の剣を拾い、ぎこちなく構える。


「ルシカ様! こいつにありたっけの炎を浴びせてください! それと同時に私が戦います」


「だめだ! 危ない! この男は、お前の敵う相手じゃない!」


「ルシカ様! 普通に剣で戦えば、私には勝てません。でも、炎の中なら話は別です」


 スゥーが俺に叫ぶ。その声は、いつものスゥーの声じゃない。覚悟を決めた女性の声だった。



「……分かった。やるぞ! スゥー!」


 スゥーに戦わせるのは、心もとないが。俺は、スゥーの声を信じることに決めた。両手を広げて、炎の魔法を繰り出す。


「範囲拡大! ストームファイアーブレス!」


 手から溢れんばかりの炎が、ソープを襲う。


「何度でも切り裂いてあげますよ!」


 ソープは、短剣で炎を切り裂いていく。その手数は、見えないほどに素早い。


「ルシカ様の敵は、私の敵!」


 ソープが切り裂いた炎が飛び散る中、俺の剣を持ったスゥーが突っ込んでいく。ソープといえども、短剣はひとつしかない。炎を切り裂きながら、素人とはいえスゥーの剣をかわすのは難しいようだった。


「くッ! こんな小娘に……」


 ソープは、炎の魔法とスゥーの同時攻撃に耐えられず、後ろへと下がった。俺が出した炎の魔法が辺りに広がり、いつの間にか通路は炎に包まれていた。


「どうやら、ここが引き時のようですね…… 魔法戦士ルシカさん。その名前、忘れませんよ!」


 剣士ソープは、通路にある窓を突き破って屋敷の外へ逃げていく。


「待ちなさい! 逃がしません!」


 それを追いかけようとするスゥーを俺は制止した。


「待つのはお前だ、スゥー。追いかけるのは後だ、屋敷の中にいる人を助けるのが先だ」


「あ、はい! ルシカ様」


 まさか、スゥーに助けられるとは思っていなかった。


「ルシカ君! スゥー君! 2人とも無事か!?」


 玄関で衛兵の治癒を終えたファンドラが、ようやく駆けつけてきた。ファンドラは、俺の腹の刺し傷にすぐ気が付く。


「ルシカ君! 怪我をしているじゃないか! 早く治療しよう」


「いや、この傷は浅いから平気だ。それより、屋敷の人を助けよう! 行くぞ!」


 俺たちは、ソープのいなくなった通路を奥へと進んで行った。


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