第54話

「被告人、ルシカ。反論はありますか?」


 裁判官の司祭が俺に声をかける。俺は、被告人席から叫んだ。


「大アリだッ! 婚約届って、ファンドラが勝手に出しただけで、俺は同意はしていない! 寝るときだって、ファンドラが勝手に部屋に入って来たんだ!」


 俺の叫び声を聴いて、傍聴人たちが再びざわつく。


「全部、女のせいにして汚い男」


「女の敵ね」


「最低な男だ」


 そのざわつきを静めるように、ファンドラ側の弁護士が発言する。


「異議あり! 被告の主張は、原告であるファンドラ氏を侮辱するものです。撤回を要求します」


「撤回って、馬鹿な! そのままだろう!」


 俺はさらに反論するが、裁判官が信じられない言葉を発した。


「異議を認めます! 被告人は合理性のある反論をしてください」


「何だって!? 十分、合理的だろう! 俺は婚約の事実は無いと言ってるんだ」


「被告の主張は、婚約届の正当性を脅かすものではありません」


 本当の事を言ってるだけなのに、なぜか旗色が悪い。まるで、俺が裁かれるのが当然のような裁判だ。そんな時、俺の近くにフィーナがやってきて発言をした。


「ごきげんよう、司祭様。わたくしは、フィーナ・エクトリア・ヴァレンタイン。この被告人ルシカの正当なる婚約者でありますわ」


「異議あり! フィーナ氏の婚約届出はドーラ教神殿に提出されていません。無効な婚約です!」


「おだまりなさい! さっきから、ドーラ教の定義でお話しされていらっしゃいますけど、わたくしもルシカもドーラ教の信者ではなくてよ! この裁判自体無効ですわ!」


 フィーナの迫力に、弁護士はたじろいだ。そうだ、そのとおりだ。


「被告人の代理が言う事も一理ある…… ここは、自由の女神たるドーラの名のもとに決闘審判で判決を行なう」


 裁判官である司祭が発言すると、傍聴人席は多いに盛り上がりだした。


「やった! 決闘審判だ! 面白い」


「久しぶりの決闘審判だ! こうしちゃいられねえ!」


 俺は観客のさわぎを横目に司祭に尋ねた。


「決闘審判って何だ!? ものすごく嫌な予感がするんだが……」


「被告人ルシカは、我々ドーラ教の上級神官戦士と一対一の勝負を行なう。被告人が勝てば、無罪放免! 神官戦士が勝てば、ファンドラと結婚する。いたって、シンプルな審判である」


「何で、俺が戦わなくちゃいけないんだよ! 結局、暴力で解決しようとしてるじゃねえか!」


「無礼な! 決闘審判は、神のもとで行われる神聖な儀式ぞ!」


 司祭は強く言い放つ。フィーナが横から俺に話しかけた。


「あんた、魔法戦士なんでしょ。決闘くらい受けておあげなさい。一人の女を振ろうとしてるのですわよ」


「わ、分かったよ。まあ、俺に勝てる神官戦士なんて、そうそういないだろうからな」


 俺は、渋々決闘審判とやらを引き受けることにした。


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