第53話

 翌日の朝、俺は大聖堂の被告人席に連れられた。両手はロープできっちり縛られている。スゥーやファンドラ、フィーナの姿もあった。


「これじゃあ、まるで罪人のようだな」


 俺がつぶやくと、裁判官の席にローブを羽織った老人が座り宣誓する。


「これより、自由の女神ドーラの名において、神聖なる裁判を行なう。私は、この神殿の司祭として、ドーラ神に誓い正義公平の秩序ある神聖なる判決を行なう」


 どうやら、この神殿の司祭が裁判官のようだ。ドーラ教の信者ではない俺にとっては、公平だとは思い難いが…… 傍聴席には傍聴人が大勢いた。なぜ、俺の裁判に観客がこれほど集まるのだろうか。


「では、原告側の主張を述べよ!」


 司祭の一言で裁判は開始された。ファンドラの隣にいる弁護士と思われる男性が主張を始める。


「えー、今回の裁判では原告側であるファンドラ氏が被告人ルシカに対し、婚約の約束をしているにも関わらず、ルシカは一方的に婚約を破棄し、そこにいるフィーナ氏と婚約したのが始まりです」


 弁護士の意見に、俺はさっそく声を返す。こちらには弁護士はいない。


「異議あり! 俺は、ファンドラと婚約した覚えはない!」


 弁護士は、聞こえないふりをするかのように弁護を続ける。


「ファンドラは、ドーラ教の本拠地でもあるドーラの町にて正式に婚約届を提出しております。お手元の資料がその写しになります。被告側から、それに反意する届け出は出ておりません」


 裁判官である司祭は、手元の書類をめくりながら答える。


「異議を却下します。確かに、婚約届出が正式に提出されている」


「俺は、ドーラ教の信者じゃない! ドーラ教神殿にそんな届出が出されていても、俺には関係ないだろう!」


 俺は不服を申し立てるが、またしても弁護士が話し出す。


「また、婚約届出が出された後、ファンドラ氏はルシカと行動を共にし、幾つもの夜を同じ床に過ごしたという供述もあります」


「それは、ファンドラが勝手に俺の寝床に入ってきただけだ! スゥーも一緒に寝ていたし、やましい事は何もない!」


「そうです! ルシカ様とは私も一緒に寝ていました。ファンドラさんとだけじゃないです!」


 スゥーが、俺を助けるために発言してくれた。しかし、それが逆に仇となって傍聴席からざわつく声が聞こえる。


「最低の男だな……」


「女の敵だ!」


「リア充死ね!」


 裁判官である司祭が、ここで大きな声を出す。


「静粛に! 神聖なる裁判であるぞ! 原告側、引き続き主張を続けてください」


 弁護士はニヤリと笑い、続きを話し始めた。


「原告側は、婚約届が正式に届けられた事実と、それに伴い婚約者として夜を明かした事実に伴い、被告側に速やかに婚約の履行! すなわち結婚をすることを求めます」


 なんて不利な裁判だ! このままでは、俺はファンドラと結婚まですることになりそうだ。


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