第44話

 シップイーターと目が合ってしまった。最悪のアイコンタクトだ。俺は、手足を一生懸命動かし何とか逃げようと試みるが、それよりも速くシップイーターの大きな口が迫ってくる。


「がごば! ごぼぼ……(飲み込まれたら、お終いだ!)」


 懸命にもがくも大きな口から逃れることはできない。もうダメだ!俺は目をつむった。


「がごば…… ごばば……(これは、いったい?)」


「間一髪、間に合いましたわ! 婚約もまだなのに死ぬことは許しませんわよ!」


 気がつくと、俺はフィーナに抱きかかえられていた。どうやら、シップイーターに食われずにすんだようだ。フィーナが水中でも響く声で俺に話す。


「さあ、左目を狙いますわよ!」


 シップイーターの残った左目をめがけて、俺とフィーナは海中を高速で移動する。大きなシップイーターよりもこちらの方が小回りがきく。


「がぼぼ! ごぼぼ!(これで、終わりだーッ!)」


 俺は、シップイーターの真っ赤な左目に剣を突き刺した。それと同時にシップイーターは暴れ狂う。


「これで、もうあの魚は何も見えませんわね。船に戻りますわよ」


「がごば…… ごぼぼ……(その前に息をさせてくれ!)」


 視力を失ったシップイーターを後にして、俺とフィーナは無事に船に戻ることができた。甲板に引き上げられた俺たちにの元へスゥーとファンドラが駆け寄った。


「大丈夫ですか!? ルシカ様! フィー様!」


「ああ…… シップイーターの目を潰した。これで、もう追ってこられないはずだ」


 俺の声に、船員たちも歓声を上げる。


「やったぞー! シップイーターから助かったぞー! ルシカ、万歳ー!」


 海水で濡れた体をスゥーからもらった布で拭いていると、フィーナが俺の元へやって来て声をかけた。


「ふふん、シップイーターから助かったのは誰のおかげかしら? あの約束、覚えてますわよね?」


「分かってるよフィー様、婚約でも何でもするよ」


 そのやりとりの間にファンドラが割って入る。


「ダメだ! ルシカ君! 確かに、今回はフィー様のおかげで助かったが、そんな事で婚約は認められない! なぜなら、ドーラ神の名において既に私と婚約しているからだ!」


「ファンドラ…… 俺は、ドーラ教の信者じゃないし、お前と婚約した覚えはないぞ」


 フィーナが高笑いを始める。


「おーほっほっほ! ファンドラさん、あなたがどうしてもと言うなら第二婦人にしてあげてもよくてよ。でも、一番はわたくし!」


「第二婦人だと…… 愚弄ぐろうするにもほどがあるぞ! 私は断じて婚約は認めない!」


 やれやれ、今回は疲れた。言い争いを続けるフィーナとファンドラを背に、俺は船室に戻ることにした。


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