第31話

「人魚の歌? まあ、頼むよ」


 この世界なら本物の人魚がいてもおかしくないな、巨大な魚やアンデッドモンスターもいるし。現に、俺は魔法なるものまで使いこなしているくらいだ。


 吟遊詩人は、小さなギターのような琴のような不思議な楽器を演奏し始めた。少し切ないようなメロディーが流れ始める。そして、語り掛けるように歌い始めた。


「今は昔、数百の年月が流れるより昔、この地に人魚の姫なるものあり」


 歌詞の内容としては、人魚姫のような物語か…… わりとベタな展開が期待できそうだ。俺は、吟遊詩人の歌に耳を傾けた。さっきまで言い争っていたスゥーとファンドラもいつの間にか、歌に聞き入っている。


「人魚の姫は、漁師の男に恋をした。それは種の異なる禁断の恋」


 なるほど、やはり期待通りの展開だ。前の世界でも人魚の話はこんな感じだったな。


「人魚の姫は人間になることを願い、神の魚に願い乞うた。それは、世界を統べる神の魚」


「神の魚だってッ!?」


 俺は急に大声を上げてしまった。吟遊詩人はびっくりして、演奏を止めてしまう。


「どうかされましたか? お客様」


「いや…… 何でもない。歌を続けてくれ」


 一瞬取り乱してしまった俺は、吟遊詩人に続きを歌わせる。しかし、まさか神の魚が歌の中に出てくるとは思いもよらなかった。


「人魚の姫は、神の魚の力を受けて人間になった。しかし、悲しきことに同時に別の世界へと生まれ変わる。人間の子として生まれ変わった」


 俺と同じだ…… 異世界へ転生してしまったのだろう。


「その世界には、姫が恋した漁師の男もおらず、姫は再び願う。恋した男のいる世界へ戻りたいと」


 これも、俺と同じだ。俺も元の世界へと帰りたい。


「姫は再び神の魚に願う。神の魚は願いを聞き入れ、姫を元の世界へと戻した。元と同じく人魚の姫として」


 元の世界へ戻れたのか!? 嬉しいニュースだ!


「しかし、元に戻ったのは再び人魚の体。恋は叶わず、姫は涙を流す。それでも、愛する者がいる世界へ戻れた嬉しさに」


 そして、吟遊詩人は最後の一節を演奏し歌い終えた。


「結局、恋は叶わなかったんですね。切ない歌です」


 スゥーが感想を述べる。


「神の力でも上手くいくとは、限らぬ事よ。我らがドーラ神においても同じことだ」


 スゥーに続いて、ファンドラも感想を述べた。しかし、俺には聞かねばならないことがある。俺は立ち上がって吟遊詩人に問いだした。


「今の歌は、本当の話かッ!? 神の魚はどこにいるんだ!?」


 吟遊詩人は、驚いた様子で答える。


「いえいえ、古くからこの地方に伝わる歌でして…… 本当の事かどうかは、分かりませんね」


「そ、そうか……」


「しかし、このオリアブの地に歌のゆかりの地がありますよ。たしか、『人魚のほこら』と呼ばれる場所があったはずです」


 俺はそれを聞いて、胸が熱くなる。神の魚の手がかりを得られるかもしれないと!


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