第21話

 夜が明けてきたころ、俺は暖かく柔らかな感触を感じながら目を覚ました。


 むに……


「ん? 何だこれは…… って、スゥー!」


 俺は驚きの声を上げる。ファンドラと同じ部屋にしたはずのスゥーが、なぜかあられもない姿で俺の隣で寝ている。

 こんなところをファンドラに見られたら、また厄介な事になる。


「いつの間に、入り込んだんだ……」


 とりあえず、スゥーを起こさぬように静かに起き上がると服を着替えた。1階のほうから何かゴソゴソする音が聴こえる…… 俺は、静かに階段を下りていった。


「あら、お客さん! お早いお目覚めですね」


 防具屋兼宿屋の女主人が、何かの準備をしていた。しかし、相変わらず露出度の高い服だ。寒くは無いのだろうか?


「ちょっと、目が覚めてしまってね。何の準備をしてるんだい?」


 俺は、興味本位で女主人に声をかける。


「釣りですよ! これから、アーマードフィッシュを釣りに行くんです」


 なるほど、釣りは早朝や夕暮れの方がよく釣れるからな。

 しかし、アーマードフィッシュとは興味深い。


「邪魔じゃなければ、一緒に行ってもいいか? 俺は、釣りが趣味なんだ」


「へぇー、物好きなお客さんだね。釣れた分は私の物でいいなら、かまわないよ」


「なら決まりだ! 俺は、単純に釣りをしたいだけだから、釣れたアーマードフィッシュはそちらに渡すよ」


 こうして、俺はアーマードフィッシュ釣りに同行することになった。


「私の名前は、イザベラ。お客さんは、確かルシカさんだっけ?」


「ああ、ルシカだ。よろしく頼む。アーマードフィッシュってのは、どんな魚なんだ?」


「そうだね。とにかく名前のとおり、鱗が硬い魚さ。鎧の素材にはもってこいのね」


 昨日見せてもらった鎧の材料となるのか……


「人間を襲ったりしないのか?」


「あははは、モンスターじゃないんだから。魚が人を襲うもんかい」


「……そうか、そうだよな」


 俺が今まで挑んだ魚は、人間に襲い掛かってくる獰猛なヤツだったが……

 アーマードフィッシュは、そうでは無いらしいので一安心だ。


「ようやく、まともな釣りが楽しめそうだな」


 村はずれにある、森の中に大きな池があった。


「ここが、アーマードフィッシュがいる池さ。エサは、これを使っておくれ」


 俺はイザベラから、団子状のエサをもらう。鯉やヘラブナを釣る時のエサ団子に良く似ている。


「この団子は、何で出来てるんだ?」


 俺は、素朴な疑問をイザベラに投げかけた。


「おっと、お客さん! それは企業秘密ってやつだよ」


 釣り人は、エサの配合など経験に基づいて作っているからな、レシピはそう簡単には教えてくれない。それは、転生前の世界でも同じ事だ。


「アーマードフィッシュは、池の陸地に沿って外周する癖があるからね。岸から少し離れたところで狙ってごらん」


 エサを針につけていると、イザベラがアドバイスをしてくれた。

 夜が明けたばかりで、涼しく…… 空気が新鮮で美味しい。


「了解! 久しぶりに良い釣りができそうだ」


 俺は、イザベラから言われたとおり、岸から少し離れたポジションを確保すると、第一投を投じた。


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