19、堕落粒

 信号待ちが鬱陶しいから薬を飲んだ。全く世界は私を苛立たせることばかりする。私は腹立たしいから、その腹立たしさを忘れたいから薬を飲む。全くもって無為である。そのことに対して、また怒りが募る。そこにいる人を殴りたくなる衝動に駆られるが、豚箱けいむしょにはいるのは嫌なので薬をまた飲んで落ち着く。

 馬鹿馬鹿しいことに家に忘れ物をしてしまった。ここから取りに戻るのは辛い。腹が立って、また薬を飲む。冷静になった私は、そこらへんの店からバレないように盗めば楽だと思い立つ。極めて冷静な判断だ。

 適当に忘れ物を補充して店から出ようとすると、男に声をかけられる。どうやら私がお金を払っていない事を注意したいらしい。苛立って彼の顔面を殴りかけるが、そこは薬を飲んで落ち着く。落ち着いた結果その男は私にとって邪魔だったので、顔面を殴って逃げた。仕方ない。

 追いかけてくる人がいなくなった頃、運動をしたせいでお腹が空いたのでファミレスに行く。食品を搬入している人を突き飛ばして、車を奪って走り去る。極めて合理的だ。ナンバーで居場所がバレるのは嫌なので、ガムを貼り付けてしばらくはそうやて誤魔化して高速に乗った。

 渋滞で前の車が止まったので追突した。こちらの車に来た衝撃が大きい事に苛立って文句を言いに行ったら逆ギレされた。やはり腹がたつので、薬を飲んで落ち着いた。悪いのは運転手では無く車だと思ったので、積んであった鈍器で滅多打ちにした。ついでに電話をした運転手も滅多打ちにした。こっちを見る人達を睨んで、運転手を荷台に突っ込んだ。そうしているうちに道路にすきまができていたので、車線を気にせずむりやり進む。そうしている間に、渋滞を抜けた。

 田舎のホームセンターに立ち寄る。薬の補充をして、キーがつきっぱなしの車を奪った。足がつくのは嫌だった。ここからいくつも車を乗り継ごうと考えた。食べ物だけ写して、運転手は捨てていこうとした。奪った車の持ち主が帰って来たので、2人仲良く元の車の荷台に突っ込んだ。そのまま放置。優しいから薬は入れておいた。これで彼らもイライラしない。

 老人が道を歩く速度が遅かったから引いた。血が車についたから乗り換えないといけない。イライラするから薬を飲んで落ち着く。血が流れるのが悪いので、止めるよう言った。無視するので、耳は要らないと思ってハサミを両方に突き刺した。黙ったので捨てておいた。車を貸してくれると言い残した気がしたので、永遠に借りる事にした。最初から従順なら私も温厚なままだったのに。馬鹿な老人だった。

 山の中、検問が立っていたので、全速力にして突っ切って行った。呼び止める警察官がうるさくて腹が立ったので、薬を飲んだ。片手を離したので、崖から落ちた。落ちているので、飛ぶ事にした。できなかった。地面が近いので、善良な私をこんな目に合わせた神を呪う事にした。死ね。神様はこう答えた。

 次の命に乞うご期待!と。やっぱり私もみんなも全部、軽かった。私は正解していたと確信し、意識を手放した。最後まで神はそこにいた。薄れる意識の中で薬を飲んで、神に最後の一撃、パンチををキメようかと思ったが、空振りです。私は天国に行く事にした。さようなら。


 では、また会いましょう。

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