13、憑依色覚

 幽霊とは生きづらいものである。彼女もそう思っているだろう。

 先ず、幽霊になってもしっかり未練以外の色々な欲やものが残っていた。食欲などである。当然、幽霊のままではなにも食べられないから、そういう時はそこらの人に憑依して、食事を摂る。幽霊としては食べなくても問題が無い、と先輩の幽霊に聞いたのだけれど、食べるという行動をしないと、よほど気の強い人でなければ、精神を保てなくなって、めちゃくちゃな形になるらしい。

 憑依して初めて知った事である。人には色覚がある。色覚は人により変わる。私の赤色はその人にとって赤色では無いのである。言い方を変えると、自分が見ている、赤色として認識している色は、実は他の人が黄色と認識しているものと同じなのである。憑依した人間の色覚が、私にとっての緑が憑依元の肌色だった、なんて時には阿鼻叫喚の騒ぎである。1人だけど。なんせ世界にゾンビが溢れるんだもの。怖い怖い。これは彼女の弁。

 色覚とは、不安定な感覚である。自分と一致した色を持つ人は1人としていない。みんなグロッキーで吐き気のするフィルターを通して物を見ているけど、生まれた時からその色だから特に違和感を持たない。優しい色が緑系の色に見えた時には、直ぐに憑依を解くべきだ。幽霊の幽霊である為の事故の証明たる精神が失せる。これだから、気の強い人でないと幽霊はやっていけない。

 何かすると狂う。何をしなくとも狂う。狂えば今度こそ死ぬ。失せる。先ほどの先輩も今となっては醜悪な肉塊のように見える。もう直ぐ溶けてなくなるだろう。

 色覚とは生前は人生を彩る風景の大事な要素であるが、死後は殺人兵器と化す。(殺幽霊兵器?) 欲望は人を滅ぼすし、色覚は人を魅了する。

 色覚は美しい。時には狂ったカラーリングがかえって美しい色合いを生み出し、不思議で幻想的な空間を作り出すこともある。ずっとそれを見るのはごめんだが、少し見るぶんには悪くない。

 私が好きだった彼女は、彼女が見る私の何色で観ていたのだろう。私はグロッキーに見えただろうか。彼女自身ではそれに気が付けないけど、今なら気がつけるかもしれない。私は学校の屋上へ、彼女に会いに行く。彼女を見つけても、彼女の色覚は奪えない。彼女の横に立つ。フェンスにもたれかかって下を見ると、青い。彼女は私と一緒に幽霊になった。幽霊に幽霊は憑依できないから、彼女の見るものは私には一生見れない。空も青い。彼女にとって空は何色だろう。赤、青、黄、緑、白、黒、紫。彼女の見るものはなんだって美しいのだろう。きっと眼下の青の中身だって、美しく見えるに違いない。

 色覚とは全て悦楽の素である。

 色覚は幽霊を生きづらくする。それ故、私は楽しかった。もはや肉塊と化した彼女、幽霊の先輩はどんな色にも見えた。ろくでなしめ、私。

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